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祝福されたテイマーは優しい夢をみる【2巻発売中】  作者: はにか えむ


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122/186

122.たくさん

  そこには細い柵の隙間を通り抜けてきたのだろう、たくさんの野生のスライム達がいた。

「うちのスタッフがテイムしているスライムに事情を聞いてもらったんだけど、ここにはたくさんのテイマーがいるからテイムしてもらいたくて入ってきたらしいの」

 ドナさんが困ったように言う。よく見ると柵の向こうに穴を掘って中に入ろうとしているラビット種もいる。テイマーにテイムされたがる弱い魔物の代表だ。


『ちょっと話を聞いてみるの』

 アオがスライムの元に飛んで行った。モモも塀越しのラビットのところに駆けてゆく。

「スライムは人間が思っているより知能が高い魔物だから、テイマーがたくさん居るとクチコミで広まったのかもしれないね」

 ソドムおじさんが冷静に分析している。

「どうしましょう、野生のスライムが敷地内に居るとなったら営業停止になるかもしれないし……」

 ドナさんは不安そうだ。一応社員さんがテイムしているスライムに出ていって欲しいとお願いしてもらったらしいんだけど、スライム達は聞く耳持たずらしい。どうやらよっぽどテイムされたいみたいだ。野生で生きるのはやっぱり厳しいのかな。

 

 今はスライムが園内にこれ以上入らないように簡易のバリケードを張っているけど、とりあえずスライムの入れない壁に工事する予定のようだ。

『話を聞いてきたの!元々みんなここの温泉によく入りに来てた子達らしいの、温泉に入ろうとしたら人間が工事していたから諦めたの。でもテイマーがたくさん来るようになって、自分達もテイムされたいって思うようになったらしいの』

 アオの言葉を通訳すると、ドナさんは頭を抱えた。モモ曰くラビット種も同じような感じらしい。

「うーん、何とかしてあげたいけどスライムもラビット種もあんまり売れないのよね……何か特殊な能力を持ってる子ならうちで引き取れるんだけど」

「何か折衷案があればいいんだけどね……野生の魔物の扱いに関しては厳しい法律があるからな」

 ドナさんとソドムおじさんは困ったように話し合っている。

『とりあえず説得してみるの』

 アオとモモは再び魔物達の方に駆けてゆく。

 

「うーん、みんなが納得出来る方法なんてあるんですかね」

 グレイスが柵の向こうに集まるラビット達を見て言った。可哀想になったらしい。

 僕ら子供組は頭を捻った。

「この辺りの森は強い魔物が少ないんだよね、初心者テイマー向けのテイム講座とかやったら多少人が集まらないかな」

 僕が言うと、ダレル君が手を叩いて賛同してくれた。

「いいかもよ!魔物を買うのは高くて何もテイムしていないテイマーとか結構いるもんね。安く簡単安全に任意テイムができるようになったら少しは人が集まるかも」

 僕らの話し合いを聞いていたドナさんが、なにやら考え込んでいる。

「定期的にテイマーを連れて塀の外に出るとなったら、スライム達も敷地の外に出てくれるかしら」

 それは交渉次第な気がする。アオに説得を頑張ってもらおう。

 

 三十分かかってスライム達とラビット達は交渉に応じてくれた。

 柵の中に魔物がいるとテイマーパークが無くなってしまうかもしれないというのが効いたらしい。

 今後柵の中には来ないようにしてくれるらしい。

 その代わりドナさんが初心者テイマー向けテイム体験を始めることになってしまったが、新しいことを始めるのは楽しいらしく何だか嬉しそうだった。

 スライム達は柵の向こうへ帰ってゆく。交渉していたアオとモモは疲労困憊だ。

 グレイスが二匹を抱き上げて労っている。


「俺、帰りに柵の外に出てみようかな?ラビットの従魔増やしたいし」

 まだ二匹しか従魔が居ないジュダ君が、ラビットが欲しいと言い出した。ドナさんがすかさずジュダ君に実験に付き合って欲しいという。

 ドナさんは職員の中でも腕利きの人を見つけると護衛として同行するように声をかける。

 次に館内放送でスライムもしくはラビットを任意テイムしたい人が居ないか声をかけた。

 意外なことに三人ほど居たので、ジュダ君と一緒に塀の外に行くことになった。

 料金が魔物を買うよりずっと安いので興味を持ったらしい。


 塀の外には大量のラビットとスライムが集まっていた。ラビットもスライムも色々な色が居るのでとてもカラフルで目が痛い。

 僕らは塀越しにジュダ君達の様子を眺めていたが、みんな問題無くテイム出来ているようだ。

 やがてジュダ君が戻ってくると、腕には標準サイズのブルーラビットが抱かれていた。

 水色の毛が可愛らしい。名前はナナにするそうだ。

「モモを見てずっと欲しかったんだよな、やっぱり可愛いな」

 ドナさんは試しにやった任意テイム体験に手応えを感じたらしく、今後も継続していくと意欲を燃やしていた。

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