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12.おばあちゃんの伝記

 回復薬を納品した帰り道。僕たちは色々なお店を覗いていた。

 ちなみに街の中では基本的にフライングシューズでの移動は禁止されている。使えるのは衛兵位だ。狭い場所で皆が使うと危ないからね。

 なので僕たちはゆっくり歩いて街を散策していた。

 

『エリス、本屋さんがあったよ』

 シロが探していた書店を教えてくれた。なにか魔法の練習に役立つ本がないかと思っていたんだ。

 

 書店に入ると、魔法のコーナーに直行する。見たことの無い魔法陣集があったので購入することにした。

 他にもなにか無いかと探していると、新刊のコーナーに『大魔女ネリー・クーリエの軌跡』という本があった。おばあちゃんの事を書いた本だ。作者名は明らかな偽名で、誰が書いたものなのかわからない。僕はその本を購入してみる事にした。

 

 二冊の本を買って書店を出ると、僕らは家に帰った。

 夕食の時間まで本を読もうと、僕は買ってきた伝記を開く。

 

 

 

 そこには僕の知らないおばあちゃんの姿があった。

 前半は若い頃のおばあちゃんの活躍だった。

 『魔女』若しくは『魔法使い』のジョブを持つものは貴重だ。発見され次第国に保護されるのだが、実際は保護というより強制的に連れていかれて国に仕えさせられるのだ。大魔女と呼ばれたおばあちゃんはそうして幼い頃から王城で育った。

 僕はおばあちゃんが何故王城を出たのか知らなかった。

 後半になると、おばあちゃんの隣には常に一人の男の人がいる事がわかる。それはこの国の王子様だった。二人は恋に落ちたが、王子と『魔女』とはいえ平民の結婚は許されないことだった。王子と無理やり別れさせられたおばあちゃんは、三十歳をすぎた頃、王城を追放された。

 本はそこで終わっていた。表舞台から姿を消してからのおばあちゃんの事は一切書かれていなかった。

 

 僕はおばあちゃんが大切にしていたペンダントが、王子様からの贈り物だとは知らなかった。

 この作者はどうしてここまでおばあちゃんの事に詳しいのだろう。きっとこれを書いた人は若い頃のおばあちゃんの傍にいた人だ。

 僕はこの人に会ってみたくなった。

 しかし、明らかな偽名で書かれた作者を探すのは難しいだろう。

 

 

 

 僕は夕食の席でもおばあちゃんの事を考えていて上の空だった。

 お父さん達に心配されてしまった。僕はおばあちゃんの事を聞いてみることにした。

「おばあちゃんはいつからあの森で暮らしていたんですか?」

 お父さんは少し考えて言った。

「少なくとも三十年は前だね。父が言うには王城から出てすぐにここに来たらしい。それから孤児を引き取って弟子にして暮らしていたけど、その弟子のルースさんもエリスを産んだすぐ後に亡くなったと聞いている」

 僕は言っている意味がわからなかった。僕は捨てられた子では無かったのだろうか。

 

「僕は捨て子じゃなかったんですか?」

 混乱している僕にお父さんたちは驚いている。

「知らなかったのかい?君の母親はルースさんだよ。大魔女様はどうして教えなかったのだろう?」

 そういえば、捨てられたとは言ってなかったかもしれない。僕の両親は僕をおいていったと言っていた。捨て子という意味だと思っていたけどもしかして亡くなったという意味だったのだろうか。

 

「ルースさんはエリスと同じ黒髪の綺麗な人だったよ」

 初めて知った事実に僕は少し嬉しくなった。僕は捨てられた子では無かったのだ。父親も死んでしまったんだろうか?

「僕の父親は誰か知ってますか?」

 お父さんに聞いてみると困ったような顔をした。

「すまない、それは知らないんだ。でもルースさんがエリスの母親であることは確かだよ」

 ルースさん――本当のお母さんはおばあちゃんの弟子だそうだが、僕はその痕跡を見たことがなかった。弟子がいたことすら知らなかった。おばあちゃんはどうして教えてくれなかったのだろう。

 今日はなんだかおばあちゃんに対する謎が深まった気がする。

 

 

 

 眠る前に、もう一度おばあちゃんについて考える。

 おばあちゃんは大好きな人と引き離されてどんな思いだったんだろう。僕にはその気持ちはよく分からないけど、きっととても辛かったんだと思う。

 でもおばあちゃんは前を向いて生きていたのだろう。僕もそうありたいと思う。

 今日はおばあちゃんの事を知れて良かった。おばあちゃんの形見のペンダントは大切に持っておこうと思う。

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