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1.魔女が死んだ日

 周囲に何も無い深い森の奥。そこに建てられたあばら家で、僕とおばあちゃんは暮らしていた。

 僕はおばあちゃんとは血が繋がっていないらしい。僕は捨てられた子なのだそうだ。でも七年間育ててもらって、僕は幸せだった。

 毎日おばあちゃんと魔法の回復薬を作って、生活物資と引き換えにパスカルさんに納品する。ただそれだけの日々だったけど僕は楽しかったんだ。

 

 おばあちゃんはだんだん起きていられる時間が短くなった。

 次第に歩くことも出来なくなって、どんどん細くなっていった。

 その時の僕には死というものがどういう事か分かっていなかった。

 ただただおばあちゃんが心配で、神様に祈り続けた。

 

 段々おばあちゃんは、自分が居なくなった後の話をするようになった。

 僕はそんなこと聞きたくなくて耳を塞いだ。

 今思えばそれはいけないことだったんだろう。

 おばあちゃんを心配させてしまった。僕がおばあちゃんのためにできることは、大丈夫だと笑って送り出す事だけだったのに。

 

 おばあちゃんはシワシワになった手で僕の手を握って言った。

「エリス、お前が一人でも生きていけるように魔女の祝福をやろう。一つ目は魂に刻まれた記憶を呼び覚ます魔法。もう一つは良縁を引き寄せる魔法。この老いた魔女の命をかけた大魔法さ。悲しむんじゃないよ。前を向いて生きるんだ」

 僕は泣きながら首を横に振った。もっとずっとおばあちゃんと一緒に居たかった。

 

 おばあちゃんの杖が光り輝いて魔法を刻む。大魔女であるおばあちゃんの魔法は僕には理解できない。止められない。

 魔法陣が完成した時、おばあちゃんが笑った。僕が大好きな優しい笑みで。

 瞬きの後、そこには誰もいなかった。

 残されていたのはおばあちゃんの纏っていた服と、魔法の杖、そして大切にしていたペンダントだけ。

 

 僕は泣いた。涙が枯れるまでその場で泣き続けた。

 そして泣き疲れて意識を失った時、夢を見た。

 

 高くそびえ立つ建物とくすんだ空。僕と同じ黒い髪の人ばかりがいる不思議な世界。僕はその夢に触れて、初めて死というものをちゃんと理解した。

 

 僕はおばあちゃんの為にも、これから一人で生きていかないといけないんだ。

 

 それでも理性と感情は別で、僕は数日は何もやる気が起きなかった。

 悲しくてもお腹は減るし眠くなる。次第に僕は普通に暮らせるようになった。一体何日かかったのかは覚えていない。

 

 鍋でおばあちゃんが教えてくれた回復薬を作りながら、おばあちゃんがいた頃を思い出す。とても寂しくて悲しかった。

 

 

 

 回復薬の買取と物資を届けに来たパスカルさんに、おばあちゃんの死を伝えた。パスカルさんは心配して街で暮らさないかと言ってきたが、僕は断った。

 今はまだおばあちゃんと過したこのあばら家を離れたくなかった。

 

 パスカルさんは僕の頭を撫でて去ってゆく。今はまだそっとしておいてくれるみたいだ。

 その優しさが有難かった。


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