変身写真のオフショット
1枚目と2枚目、そして4枚目の挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
そして3枚目の関羽の画像は、みこと様より頂きました。
家族の記念写真にも色々とあるけれど、写真館でプロのカメラマンに写して貰うのもまた一興だよね。
私の住む台南市では、写真館で撮影する「変身写真」がちょっとしたブームになっているの。
華やかな貸衣装やアクセサリーをプロのスタイリストさんに着付けて貰い、これまたプロのメイクアップアーティストさんにお化粧を施して貰った上で撮影するんだけど、まるでモデルさんのグラビアや 映画俳優のブロマイドみたいに見目麗しい写真に仕上げて貰えるんだ。
そうして新しい自分に変身出来るから、「変身写真」って言われているんだって。
この変身写真は衣装やメイク等でソコソコお金がかかるから、人生の節目節目の特別な記念写真みたいな感じで撮影する事が多いかな。
例えば卒業を間近に控えた高大生の友達グループが学生時代の思い出に撮影したり、カップルが交際何周年記念で撮影したりだね。
そして海外から台湾へ観光旅行に来る人達には、旅の思い出作りに最適なアクティビティとして楽しまれているみたい。
だけど私達一家が変身写真を撮るに至った経緯は、少しだけ変則的なの。
それと言うのも、お母さんの学生時代の友達が脱サラして家業の写真館を継ぐ事になったんだ。
そこで友達の新たな門出の御祝儀代わりに、私達一家で売上に貢献する事になったって訳。
「本当に助かるよ、白姫。今の時期は海外からのツアー客も少ないから、変身写真の依頼も伸び悩んでいるんだ。」
「そんな水臭い事なんて言わないでよ、私達二人の仲じゃない。でも…それなら今回の変身写真は、貴女としても腕の見せ所よね。貴女の腕なら、きっと私を虞姫や貂蝉みたいに美しく写せるって信じているわ。」
申し訳無さそうな旧友に鷹揚に笑い掛けるお母さんだけど、その時に白い漢服の袖で口元を隠して嫣然と科を作っていたんだよね。
オマケに下ろした髪の側頭部には、豪奢な金色の髪飾りまで着けちゃって。
気分はもうスッカリ、楚漢戦争や三国時代の武将達を魅了した美姫って所かな。
もっとも、斯く言う私もあんまり人の事は言えないんだけど。
何しろ今の私が着ているのは、金糸で刺繍の施された真っ赤な漢服という大時代的な衣装なんだからね。
普段使いに愛用しているヘアバンドだって、今日に限っては透し彫りの施されたタイプに差し替えられたんだもの。
こんな装飾性の高いヘアバンドを着けて小学校に行こうものなら、昼休みのドッジボールか体育の授業のどちらかで早々に駄目にしているだろうね。
スタイリストさんもよく見つけてきたもんだよ。
それにしても、撮影の合間ってのは退屈だなぁ。
お母さんは高校時代の友達と楽しく話し込んじゃっているし、お父さんは関羽雲長の付け髭が今一つシックリ来なくてやり直しているらしいし。
そりゃ「美髭公」と呼ばれている関羽のコスプレをするんだから、付け髭に違和感があったら困るのは分かるけどさ。
衣装合わせの様子をチラッと見たけど、「本物の三国志の時代に青龍偃月刀はまだ無いから。」と言って普通の剣を小道具に選んでいたし、お父さんも随分とこだわるよね。
この後には夫婦でのツーショット写真と家族での集合写真も控えているってのに、まだまだ時間がかかりそうだね。
スマホのゲームで暇潰しするのも、流石に一人だと飽きてきちゃったよ。
ここは一つ、五つ歳上の美竜お姉ちゃんでもマルチプレイに誘ってみようかな。
お姉ちゃんも個別写真を撮り終えているから、きっと時間を持て余しているはずだよ。
「お姉ちゃん、マルチプレイをやりたいからログインしてよ…」
「さてと、今度は英語科目の過去問が良いかな。」
だけどお姉ちゃんは私の声に全く反応せず、机の上に広げた参考書に視線を落としていたの。
美竜お姉ちゃんは日本の近畿地方にある堺県立大学で地域社会学を勉強しようと志しているから、高二の今から大学受験の準備に余念が無いんだ。
それにしても、写真館にまで受験勉強の参考書を持ち込むとは精が出るね。
そんな事だから、視力が悪くなって眼鏡のお世話になるんだろうな。
だけど貸衣装の漢服を着て受験勉強に勤しむお姉ちゃんの姿は、なかなかミスマッチで面白いなあ。
あの緑と白を基調にした漢服は「三国志」の頃の女官や公女を意識した物らしいけど、その時代には眼鏡も大学入試の参考書も存在しない訳だからね。
こういう大時代的な衣装と現代的な道具立てが混在しているシチュエーションってのは、見ていてなかなか面白いよ。
そうだ、せっかくスマホもある事だし…
「よし…撮るよ、お姉ちゃん!こっちを向いて!」
「ん?!どうしたの、珠竜?」
さっきよりも声のボリュームを上げただけではなく、カメラアプリのシャッター音のオマケ付き。
これには流石に、お姉ちゃんもガバッと顔を上げてレンズの方を向いてくれたよ。
しかも、バッチリとカメラ目線だからね。
「えっ、どうかした?」
「ちょっと!美竜も珠竜も、そこで何を騒いでんの?」
とはいえ少し騒ぎ過ぎちゃったのか、お母さんとその旧友にも気づかれちゃったんだけどね。
「アッハハ!そんな大した事じゃないんだよ、お母さん。お姉ちゃんが漢服を着たままで参考書を広げているのが面白かったから、ちょっとスマホで撮ってみただけだって。」
「もう…困るなぁ、珠竜は。油断したタイミングで不意打ちみたいに撮られたら、変な表情になっちゃうじゃない。小学校とかで見せたりしないでよ。自分の知らない所で笑い者にされていたら、私だって困るからさ。」
口では不平を漏らしてはいるものの、お姉ちゃんの声色と表情に不愉快そうな感じは認められなかったの。
どうやら御本人としても、満更じゃなかったのかもね。
この画像、後でお姉ちゃんのスマホにメールかSNSで送ってあげようかな。