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妹とクラスとドイツ

朝。家。

「最初の協力が土下座を撮ることになったのー!?」


妹が大きな声で言う。


「まぁ、そうなるな」

「どういう経緯?」

「…お前がたまに配信してることを親にばらした」

「重いっ、罪が重いよお兄」

「それくらいのことをしてしまったような感じだな」

「…小清水さんとの協力関係をだれかにばらしたんだ?」

「エスパー?」


エスパー?


「お兄ちゃんのばらすような秘密なんてそれくらいしかないでしょ」

「…そうだな」


俺もまだまだ胡桃に隠し事はできているらしい。


「お兄?そのしょうもない秘密はばらしてもしょうがないから、カウントしてないだけだよ」

「鎌?」

「…かけてると思う?」

「いや…俺の敗けだな…」


胡桃なら鎌をかけるとか以前に、もう振り切ってクビ飛ばしてるだろうからなぁ。

…心の安寧のために、曖昧にすることで、胡桃が俺のことを全て知ってはいないと言い聞かせた。

俺の性事情とかな!


「ししし…お兄ちゃん、耳貸して」

「嫌だ」

「大声で言ってもいいんだよ?」

「俺の敗けだって言ってるのに…」


中腰になって耳を貸した。


「お兄ちゃんなら、いいのに…」


胡桃の頬は朱色に染まっていた。


「ガキが…俳優になれるぞ」

「台詞はどうだった?」

「『いいよ?』ではなく『いいのに…』したのはポイント高いかもな」


前者なら誘ってるだけに聞こえるが、後者はずっと心に秘めていたものが漏れた感じがしてぐっとくるかもなぁ。


「配信にいた?」

「リスナーの入れ知恵かよ」

「まぁね」

「あんまり真に受けるなよ」

「は~い」


俺は5枚の土下座写真を携帯に表示させる。


「どれがいいと思う?」

「それ、妹に選ばせるの…?」

「俺は決まっているが…意見を聞きたい」

「正面」


ということで、小清水に画像を送っておいた。


妹の部屋の明かりが暗い廊下を照らしてる。

その中で土下座をしている俺。背中に暗闇を背負っているいい写真だな。

つまり、めちゃくちゃ哀愁漂ってる。


…でも、分かったこと、分かっていたことだったが。

妹の前で隠し事はとても難しいらしい。

どうして、こんなに逞しくなってしまったのか。


—————————————————————


登校中。

小清水が話しかけてきた。


「おはよう…」

「おはよう」

「その…やらせ過ぎたようね、ごめんなさい、それだけ」


と言って、そそくさ登校していった。

多分土下座のことだろう。

あの画像は迫真、渾身の一枚だったからな。

ふふ、勝ったな。


今日は火曜日、だが、気分いいぜぇ、こいつはよぉ!


————————————————————————


クラスの扉を開ける。

「おざーす」

「おざーす」「おはよう」「おはよーす」


適当に挨拶しながら席に着く。

西城さんもいるな。

ダチに話しかける。


「首尾はどう?」

「思ったより良いクラスだった」

「そうなのか?」

「西城さんが姫化するわけでもなく、女性も普通に話してるし、男性は…普通じゃない奴も若干名いるけど」

「西城さんは運がいいってことか」

「そーだねー」


心配なさそうで良かった。

A先生が入ってきた。


「ホームルームを始めます。日直の方よろしくお願いします」


日直は悠人か。


「きりつ、礼」


ばらばらと着席する。


「…テスト期間になりました。いい点数を取ることが一番なのは分かり切っていることです。ただ、継続しなければ意味がありません。その場凌ぎで点数を取らないでください。」


先生は続ける。


「毎日30分勉強したらこのくらい取れる、1時間ならこのくらい取れる…塩梅を知ってください。最初は全く頭に入ってないことに不安を覚えます。ただ、継続は力なり、です。これを機に、生活に勉強を取り入れて、高校3年間を過ごしてみてください。以上でホームルームを終わります。」


A先生は去った。

なんか、担任が決まったときを思い出すなぁ。


「勉強会ってまずいのか?」「やっぱ自分で勉強しなきゃだめかな…」etc


ダチが大きめの声で言う。


「勉強会ってまずいかな?」


しゃーない、付き合おう。


「別にまずくないだろ。まずどうやって勉強していいか分かんない奴とかは勉強できる奴にどうやって勉強してるか聞けるし…」

「なるほどー」

「分かんないとこは、分かるやつに直接聞けばいい。相互理解にもなる」

「うんうん」

「もちろん、一人で勉強することも悪くない。自分で自分をあげることも良いことだろ」

「…お前自身のことは聞いてねーよ」


俺の立場も確立させとかないとな。


しーん、しーんと黙り込む、教室。


声を落として喋る。


「お前のやり方はあからさますぎんだよ」

「いやー、これが一番手っ取り早いから…」

「黙っちゃったぞ」

「固まってるねぇ」

「…」

「…」


能戸さん、何か喋ってくれ、目で合図する。

ピカーンっと鳴った気がした。


「竹内君の勉強会面白かったなぁ」


能戸さんはちらっ、ちらっと他の子を見た。


「うん、面白かった」「私も!」「同意で」「俺もそうだな」「頭良くなった気がするしなぁ」

「そんなにおもろかったん?」「行けばよかったぁ」etc


そんな言葉で溢れる教室。


「良かったな、勉強会続行だとさ」

「まぁ、いいけど…持つべきものは親友です、か」

「能戸さんやるな」

「あの子、察する能力高いから。地頭が良いっていうの?昨日の勉強会でさ———」


元の空気に戻ったことを確認しながら雑談する。

その空気を吸いながら、今日の授業が始まっていった。


—————————————————————————


昼休み。

今日は、ドイツのドスケベお姉さんがいらっしゃる。


「行くぞ」

「ああ」


戦友と、購買部へ向かった。


————————————


日本で店を出しているパン屋「フレイヤ」で働いている方、「Sofia【ソフィア】」さんが学校にパンを売りに来る。

SNSでも活動していて、


・パンがうまい

・外装内装オシャンティー

・ライ麦パンが食える

・普段はブロンド色の髪だが、日本の黒髪が好きで染めているらしい

・夫(日本人)がいる(メロメロ)


なことが読み取れた。


「設定盛り過ぎじゃね?」

「それを確かめにきたんでしょ?」


俺たち1年生は初めて会うのだ。

期待、緊張、不安があった。

ただ、2,3年生は違う。顔つきが。

生き抜くことだけを考えてやがる。


「メニューなんだっけ」

「プレッツェル…200円」

「すごいなぁ」

「学生だから、だとか」


ありがたい、そして200円で美人を拝めるのか。

よっしゃー!

それにしても…


「女の子も多いな」

「うまいらしいから、パン」


結構人がいる状況で男女比6:4くらいか?

女は嫌そうだな。




「200円、頂戴します。ありがとうございます」

「来た来た」


予約制で100人、運よく当選した俺たち。

先に徴収するソフィアさんを待つ。

ここでは1人でやっているらしい。大変だな。

プレッツェルって旨いのかとか、

ほんとに美人なのかとか、

考えていたら、



「あの~」

「え?」

「200円いただきますね?」

「あっ、すみません、よろしくお願いします。」

「ふふっ、楽しみにしててくださいね」


と言って、いつの間にか垂れてた涎をハンカチで拭かれた。


ピヨピヨ。


「200円お願いしまーす」

「あっ、はい…あの方大丈夫でしょうか?なんだか様子が…」

「友達ですので、僕に任せてください、多分美人に照れちゃっただけなんで」

「ふふっ、口がお上手なんですね…ではお願いします」


ピヨピヨ。


「おーい大丈夫か?お前がやられるなんて珍しいな」

「…シチュエーションが、良かったんだ。役者が、良かった」

「役者…誰に似てた?」

「井〇遥」

「おう、それはいいねぇ」

「ハイボールのCMやってほしい」

「あの衣装で?」

「ドイツの衣装か?めちゃくちゃいいな」

「民族衣装だな、夫が好きで着させられるってさ」

「良い趣味をお持ちで」


そうして俺たちはプレッツェルを買った。

でれっでれだった。


だから見落としそうになった。

小清水咲がソフィアさんのことをジロジロ見ていたことを。

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