テスト期間と不穏
月曜日、元気ない、辛い、太陽が憎い。
ぐったりとした姿は見せないが、心は沈んでいた。
「おはよう」
「おざっす」
小清水咲が挨拶してきた。
「何?挨拶?」
「…気分が悪いときはふざけておくといいんだよ」
「風邪?…じゃあ、また」
「ただの”どざえもん症候群”だ。風邪じゃない」
「それでも嫌なのだけど」
「しょうがないだろ、月曜日なんだもん」
「…まぁ、テスト期間にも入っているしね」
「え?」
え?
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「すみません…皆さん。金曜日に伝え忘れたことは…テスト期間に入りましたということです…」
誰か気づけっ!
部活入ってる奴とか気づくだろっ!普通!
能戸さんは、
「『今日(金曜日)も練習なんて偉いな』って褒められちゃった!」
気づけっ、聞け、素直かっ。
休みだった奴らもいたが、
「ラッキー」
だった。
不幸になってるやん。
ダチはというと、
「まさか、誰も気づかないとは思わなくて…黙るしかなくなった」
「こいつ、テスト期間に入ってたこと、気づいてたってよー」
クラス全員の目がギロリと向いた。
「嘘だろ…」
「少し痛い目に遭え」
俺は席を離れる。
トイレにでも行くか…
魚の踊り食いみたいな惨状だった。
しかし、今回はダチが食われる立場だ。
ガチで食らいつく者、ヤジを飛ばしてくるもの、ただただ騒ぎたい者。
祭りのような状態になった教室を見送り、トイレに向かった。
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昼休み。
「勉強会を開くことになった、今週の土曜」
「休日返上か…」
「言い方言い方」
「まぁ、頑張れ」
「要所を抑えることとヤマ張ることを教えてくるよ」
「テストいつだっけか」
「来週の水~金」
「早いよな、なんでか知ってんのか?」
「校長の粋な計らいらしいよ。ゴールデンウィークを楽しんでほしいからだってさ」
「熱ッ」
「でも期末テストのことを考えるとね…」
「寒ッ」
「その頃はもう熱々だけどねぇ」
…
俺が口を開く。
「校長の情報って出回らないのか」
「逆かな。情報が出回りすぎてる」
「はげとか?」
「確かに、それは入学式で確認できた。…まぁ坊主にしてるだけっぽいけど」
ダチは続けて言う。
「核心をつく情報があまりない」
「ちょっとはあるのか」
「坊主とか、身長とか…全部入学式のときに感覚で感じた数値だけどね」
「性格、志、校長になった理由とかが分からない?」
「そんなとこ」
唐揚げを頬張る。そのあとごはんを食べる。うめぇ。
ダチは続ける。
「あと…遊びか本気か知らないけど、校長のデマ情報を流す奴がいるんだよ」
「狙いは?」
「多分、校長のデマ情報を握らせて悦に浸ってる奴を笑いものにしてるんじゃない?」
なるほど。
性格が悪い。
…サーバーをクラッキングしてみたら、サーバー自体がダミーだったみたいな感じか?
怖いな。
「何々?ずいぶん熱心に捜査してるねぇ」
「協力関係だからな、使えるものは使わないと」
「お前も使われてるぞ」
「使われている感覚、悪くないぞ…見返りもあるしな」
「へぇ~、どんな?」
彼女の情報を売ることを伝えた。
「おぬし、性格が悪すぎるが…故に」
「…」
「サイコー」
「うまいっ」
ここに、固く、強い何かが結ばれたのだった。
…
ただ、いつも食べる梅干しは、より酸っぱかった。
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放課後。
「竹内くん、放課後勉強しようよ」
ダチの名前、竹内悠人の姓が呼ばれる。
「いいよー」
友達付き合いは非常に良い。
恋慕情報をもらえるからなんとか。
「まじ?土曜じゃ遅いと思ってたんだー」「じゃあ、俺も行くかぁ」「俺も!俺も!」「私も行きまーす」
わらわらと、集まる。
能戸さんが言う。
「長谷川君も行く?」
「すまん、荷物を受け取らないといけないからパス」
「そっか、じゃあね~」
能戸さんは茶髪さん、西城明日香にも声をかける。
「明日香は行くっしょ?」
「ごめん、パスで」
「え~!?…いいもん、私だけ賢くなるんだから」
「期待してる」
「あ~それ期待してない奴…」
騒ぎを尻目に教室を出た。
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下駄箱から靴を取り出す。
そして靴を落とす。
今日は…両方曇りか…
くだらない遊びをやっていると…
「何、してるん、ですか?」
西城さんが声を掛けてきた。
「占い?靴が表なら晴、横向きなら曇り、裏なら雨」
「やってみても、いいですか?」
どうぞ、手でジェスチャーしてみた。
西城さんの下駄箱は下の方、でしゃがみこんで、靴を取り出し、しゃがみこんだまま靴を落とした。
これは晴になるな…なんて思っていたら。
曇りになってしまった。
運わりぃ…西城さん。
さいころの1の目から振ったようなもんなのに…
「まぁまぁまぁまぁまぁ」
「…!」
西城さんのことをあまり知らないので、なんて言葉をかけていいか分からん。
西城さんは膝の上で腕を組み、傾げながら言った。
「お揃い、ですね」
……………………確かにー、単純に靴の出目は4通りあり、横向きになる確率は2/4だから1/2!それが4回起こったので、1/16の確率ってことぉ!?
…もうちょっときつめの確率を当ててえなぁ…
…キュイン!キュイン!キュイン!キュイン!キュイン!キュイン!キュイン!
7?7
「何、してるん、ですか」
激熱!
「やって、みても、いいですか?」
押せぇ!
デュルルルデュルルルデュルルルデュルルルデュルルル!
777
「お揃い、ですね」
ピロろろろろろろぴろろろりんピロろろろろろろぴろろろりん!
…親父の話を総合するとこんな感じか…
打ってみたいなぁ。この台。
「何、考えて、ますか?」
後ろで手を組んだ西城さんが近くにいた。
「あまりよろしくないことだな」
「私には、言えない、こと、ですか」
「18禁だ」
「そ、そう、ですか…正直、ですね」
18歳じゃないと打てないからなぁ。
…
「私も、正直に、なっても、いいですか?」
「ああ」
やめてー、「お揃い、ですね」でだいぶやられてるからやめてー
でも、
夕暮れの淡い光が、彼女の目に灯っていた。
「一緒に、下校、しましょう」
「いいよ」
下校かーーーい。
…
西城さんは横たわった4つの靴を撮っていた。
その写真は、なんかこう、くるものがあった。
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下校中。
西城さんと下校するのは初めてだな。
つかず離れずの位置をキープする。
話してもいいけど…話したいことがありそうなので黙って待つ。
欠伸は我慢。春の陽気にやられそうになるけどな。
「…すみません、なかなか、喋れなくて」
「…男性苦手なんだろ?すごいと思うぞ」
このことは男性苦手が原因で喋れないわけではないということ知っている。
さっきまで喋れたしな。
ただ、俺は男性苦手の方面から西城さんをよいしょする。
「既に凄いことをしている人が、さらに凄いことをしようとしてる」
「…はい」
「俺はそれを待つから、今日がダメなら明日でもいいから」
「…」
「だから、謝んなくていいよ」
「ありがとう、ございます」
そうそう、感謝がいいんだよなぁ。
「じゃあ、聞きますね」
声色が…なんか…
「遥と親友になったみたいですね」
「そうだな」
金髪さん、能戸遥さんのことだ。
こっわ、でもここで怯んではいけません。
こういう時は、先手必勝!
「それがどうした」
「じゃあ…私との、関係って、なんですか?」
声色が戻ってる?か?
しかし、俺は無慈悲に答えを出す。
「知り合いだな」
「そう、です、よね」
「だから、いろんなこと教えあわないか?」
「それって…」
「そのうち、親友になるだろう、多分」
西城さんは笑顔だった。
でも、いつの間にか曇りきった空とその暗さがなんだか不気味だった。
そして、彼女が言った。
「小清水咲との関係はなんですか?」