ラーメンと推理と裁判
ガラガラ。
「…」
顔いかつッ。
しかも「いらっしゃい」もなしか…
「…いらっしゃい」
おっそ。
…カウンターしかないな。2人で席に着く。
ダチが言う。
「おすすめとかありますかー」
「…全部さ」
かっこいい。
ダチは言う。
「じゃあ醤油ラーメンで!」
「俺は塩ラーメンで」
「…はいよ」
こういう親父好き。
俺は水を注いで1杯飲み干す。
「ッぷはーッ」
「親父」
「誰が親父だ、ったく、やってられねーよ」
ダチは呆れながら聞いてくる。
「何があったのさ?」
「お前の勘が当たったんだよ」
「何の?」
「俺と、あいつが、関わってくってことだよ」
「付き合うことにしたの?」
「ああ!そうさ!高を括ってたら頭下げられて、カウンター食らったたんだよ!」
「お前の敗けだね」
「敗けてないが!?」
敗けてないが!?…敗けたけど。
「彼女、頭下げられるんだねぇ。面白い」
「面白くねぇよ、まったく…」
「俺はさらに好きになったよ、彼女のこと。」
「…………まぁな…約束も取り付けたし」
「何よ、それ?」
1杯注いで飲む。
誰も陥れるな、という約束のことを話した。
「本当に守ると思う?」
「分からん。それに…」
「それに?」
口裂け女、のことも話した。
「こっわ」
「怖いよなぁ、あんなのクレヨン…」
「お待ち」
来た来たー。こういうのでいいんだよ系ラーメンだ!
そそるなぁ、これは。
手を合わせて…
「いやあ”あす」
「いただきます」
割りばしを割る。いつもきれいに割れん!
ダチはいつもきれいに割るなぁ。
「コツは?」
「後でいいだろ」
「そうだな」
海苔、ゆで卵、チャーシュー、メンマ、ネギ、ナルト、そしてラーメン。
まだスープにちょっとしか浸かっていない海苔を先に食べる。
そして、ラーメンを…啜る!
「~~~~~~~~!!!!!!」
うっま。
ネギとナルト、メンマを巻き込みながらラーメンを平らげていく。
途中で味変も込みでゆで卵を頬張る。
塩のしょっぱさと卵のあまみが相まっておいしい。
「はぁ~~~~」
息つく暇もなく食べたので、一息つく。
そしてぇ?スープをぉ?飲み込んだ!
心音より早く喉が鳴る。
「~~~っあああああああ」
「はーおいしかったぁ!」
まだ4月だが、汗をかくには十分な”熱さ”だった。
「ごっとさん」
「ごちそうさまでした」
「替え玉は?」
「思ったよりも多かったからいいや」
「確かに」
これで600円か…学生向けだなここは。
「よく見つけたな、この店」
「まぁねー」
また来よう。
1200円を払う。
「…また、いらっしゃい」
この親父、好き~~~。
ダチが言う。
「また、来ますね!」
ガラガラ。
俺たちはそのまま帰路に着く。
その際、醤油ラーメンと塩ラーメンの良さを語り合ったのだった。
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昨日のラーメンで全て捲ったので、上機嫌で今日を迎える。
そして登校している。
ふと、空を見上げる。
あっ、ナルトが浮いてるぅー
「ねぇ、話があるんだけど…涎が垂れてるわよ」
「ああ、すまん」
ハンカチで涎を拭う。
…意外そうな顔しやがって…
「意外ね」
言わんでも分かるわ。
「それで?今、話、いいかしら?」
「ああ、いいぞ…注目を集めてもいいならな」
「魔除け」
「…匂う?」
「臭うわね」
手で鼻を摘まんで言ってくる。
うっさいわ。
「私がかわいいから、よく声をかけられるのよ」
「それで、魔除けか」
「協力関係だもの。あなたの全てを使わないと勿体ないからね」
「スープまで飲み干すのといっしょだな」
「…春キャベツのスープ?」
「残念!塩ラーメンでした!今度は醤油ラーメン食いに行くんだぁ!」
「…本当にこの人と協力していいか心配になったわ」
はぁ~~~~っと彼女は溜息をつく。
そして登校した。
「ついてこい」
「ええ?」
3Fの角の休憩室へ向かう。
彼女も察したのか黙ってついてくる。
俺が先に入り、後から彼女が入ってくる。
彼女が扉を閉める。
「まだホームルームまで時間はあるな」
「そうね」
机に腰かけた彼女が続ける。
「キミの意見を聞かせてよ」
そうだな…何から話すか…
「誰が流したか、候補…ジャンルを絞った」
1.生徒
2.先生
3.一般人
「そんなの言われるまでもないわ」
「それは、B先生も入れているか?」
「え?」
「俺はB先生が噂を流したんじゃないかって言っている」
「…そう、ね。その可能性を無意識に排除してたわ」
仕方ない。盲点になりやすい部分だ。
「ただ、可能性は低い方だけどな」
「何故?」
「まず先生だから疑われにくい。それが怪しい。先生が生徒会室にいた。そして俺らの問題を解決した。揉み消したと言ってもいい。また怪しい。お前が好意を寄せていることを知っていたからやったかも。さらに怪しい。」
「…怪しすぎるってこと?」
「そういうことだ」
まぁ、怪しすぎるから候補に入れないわけではない。
「…犯人は私たちが起こした問題を解決することを知っていたのかしら?」
「…俺たちが問題を解決することは知らなくても良かったかもな」
「どういうこと?」
「犯人のやりたかったことは、お前の噂を、俺が流したことにしたかった」
「そうね」
「俺が、お前がB先生に好意を寄せていることを、察せる状況を作れれば良かった」
「…あなたと私とB先生が集まることだけ知ってれば良かったのね…」
「そうだな。…それに…」
「それに?」
「…」
「?」
俺とこいつがぶつかったのは、本当に偶然なのだろうか?
…これは、俺の中だけに秘めておこう。
「犯人の誤算は、俺たちが協力すると思ってなかったことだな」
「そうね、それで犯人像は…」
「まぁ、俺のことをよく知ってる奴だな。そして、お前のこともある程度知っている奴…」
…あっ
「ダチだな」
「そうね」
「あいつ、縛くか」
「私がやる」
「…まぁ、B先生がいることまでは把握してないか」
「聞いてみたの?」
「いや」
「今日聞いてみて」
「分かった」
キーンコーンカーンコーン。
これまでだな…
「じゃあな」
「待ちなさい」
「なんだよ」
「連絡先、交換しましょう」
「ウイルス送る気か?」
「…あまり詳しくないのだけれど、頑張るわ」
頑張るな。
「でもいいのか?俺と交換して」
「ええ。今は2つ、持っているもの」
かわいくねー。
「じゃあ頼む」
「頼む?」
「スマホは分からん」
「…あなた、友達いないの?」
「いやー全部そいつらにやってもらった。いつも手間取るから『貸せ!』って言われてな…」
「そう…じゃあ貸せ」
漢らしい。
そんなこと思っている間に…
「終わったわ」
「どうも」
「貸し1つね」
たまんねー。
「じゃあな」
「またね」
教室に戻るとき、連絡アプリを確認した。
彼女のアイコンは…っと、猫だった。
声優か!お前は…
でも、彼女の本当のアイコンは何だろうな?
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昼休みになった。
「開廷」
「閉廷」
閉めんな。
「俺はお前を裁かなくちゃならん」
「お前が裁判官なら、原告は誰よ?」
「あいつだな…でももしかしたら刑事かもよ?」
「彼女、お前を任意同行したもんな」
「連行な」
「でも、警察官でしょ?その仕事」
「細けぇことはいいんだよ」
「てきとーな裁判官だぁ…じゃあ、弁護士を要求しまーす」
「却下」
「めちゃくちゃやん」
「はいはーい!私が弁護士やるぅ!」
金髪さんが名をあげる。
茶髪さんの親友だそうだ。
たまに、俺らが話していると割り込んでくる。
「ありがとー金髪ちゃん。この裁判官横暴でさー」
「マジ?それはいかんねー?裁判官君?」
金髪さんが机をくっつけてくる。
ここで弁当食べる気だな。
「…俺は心を鬼しているだけなんだ。こいつを信じて理非を決しようとしてるだけなんだ…」
「…裁判官君…」
「…金髪ちゃん?俺の味方、だよね?」
「…っは!?買収されそうだったわ…」
「情に訴えただけだけどな」
「じゃあ、裁判員?」
「ぶっぶー、弁護士は裁判員に、なれませーん」
「あっちゃー、じゃあ弁護士ちゃんになりまーす」
「…じゃあ、始めようか」
3人きりっとしている雰囲気になる。
…なんで?
「俺とあいつが生徒会室に行った日、生徒会室にB先生が居たことを知っていたか?」
「俺は校長を探すのに夢中だったぞ」
「…」
金髪さんはパクパク食べている。
「予想はできたか?」
「う~ん、できたんじゃないかな?」
「私もそう思いまーす」
おお、2人とも息ぴったりだ。
「著名した紙があるだろ?あれの存在知ってた奴とか、これは先生の可能性が高いね。」
「私は…人の癖かな」
「癖か…」
髪をいじりながら言う。
「A先生の例を挙げるんだけどねー。A先生は、なんと!教室に入る前に髪を直します!」
「「かわいい~」」
「分かる~。大人っぽく見えるけど乙女なんよ!あの人!」
「でも教室から見えなくない?金髪ちゃん」
「確かに」
すると、金髪さんが照れた。そして言う。
「私よく遅刻すんだよねー、それでよくその場面を出くわしちゃってー…」
「「かわいい~」」
「もう!バカにすんなし!」
ガツガツ食い始める金髪さん。
「有益な情報だ。だからB先生の癖を知っていて、その癖が彼女に会うなり、生徒会室に行く癖だったりしたら、犯行は可能だということになる」
「俺は癖までは知らないなぁ」
「そうなのか?」
「癖は調べてば分かる。だが、時間がかかるし意味ない。この人のこの癖はこれだ!って思ってもただそれだけ。お前が求めているものは、仕草だな」
「何か違うのか?」
「癖の上位互換だと思えばいい」
「私、知らんかった…」
ダチが、そうだなーと言い、
「例えば、金髪ちゃん」
「え、私!?」
「金髪ちゃんは陸上部に入ってるよね」
「うん、やってまーす」
「何の競技やってる?」
「今は砲丸投げをやってます!」
「へぇー」
なかなかいかついな、金髪さん出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでる感じなんだがな…
まぁ、太ももは太いが。
「被告!裁判官がエッチな目で見てきます!」
「セクハラで訴訟しよう」
「却下」
「無敵か?」
「これが、職権乱用!?」
金髪さんと話すとすぐ脱線すんだよなぁ…
俺が悪いが。…ダチが言う。
「砲丸投げの前にすることってある?」
「えーとっ、」
金髪さんは人差し指を唇に当てる。
目を閉じた。
「こうやってる、かな?」
おおおおおおおおおおおおお。
ええやん、ええやん、かわえーやん。
金髪さんが目を開ける。
俺たちは普通に戻ってる。
「これが、仕草の上位互換、ルーティーンだよ」
「なるほど」
「私がやってることってルーティーンなんだ!かっこいい!自慢してくる!」
いつの間にか食べていた金髪さんは、机を離して、自慢しに行った。
…
「判決は?」
「無罪?」
「なんだそれ」
「判決にもいろいろあるかな」
「はっきり言ってくれ、あんまりいい気分じゃない」
…
「無罪」
こうして、第1回昼休み緊急裁判~金髪さんが弁護士!?~は閉廷した。
また、何か奢るかな…。