激突、そして協力
「昨日、俺が言ったこと、覚えてるか?」
「ええ」
「それを承知で来たってことか?」
「ええ、確認したいことがある。昨日のことで」
なんだろう?
昨日のことっていうと、生徒会室のことか?
…何はともあれ、用事を済まさなきゃこいつは帰らないだろうな。
「…分かった。次はどこへ行くんだ?」
「付いてきて」
…。
どうやら、3Fの角っちょにある休憩スペースへ向かうらしい。
黙って彼女から離れた後ろを歩く。
…影を踏んだら蹴ってくるかもしれないからな…
着いた。誰もいなかった。
彼女が入ってから俺も入った。
ゆっくり扉を閉めた。
次の瞬間、彼女は俺の首根っこを掴んできた。片手で。
「どこで知ったの?」
「なんの話だ?」
「とぼけないで。私の耳に入ってきたわ。」
「…」
「『私がB先生のことを好きだ』って情報がね」
「…本当なのか?」
「関係ない。今はそこじゃない。誰が流したか、よ」
「俺は関係ないぞ」
ギラついた目が、俺の目を捉えている。
そして、今度は両手で掴んで俺を壁へと押し付ける。
怒りは力になる。が、それだけではない彼女の力の強さを感じた。
「吐け」
「関係ない」
「…あなたと会ってから、3日しか経っていない。その内に情報が出回った」
「偶然だろ」
「…お友達はずいぶん情報にご執心なようね」
ギリギリッ。必死に怒りを抑えながら話しているようだ。
こいつ、やけに詳しいな。でも、
「証拠がないだろ」
「…」
「証拠がないから、一番怪しいであろう俺を問い詰めて、吐かせようとしてんだろ?」
「…」
「ふざけんな」
怒っている相手には、逆切れで返す。
彼女に覇気がなくなってきた。
その内に考える。
俺は実際、こいつがB先生に好意を向けていると気づいたし、ダチにも話した。
ダチは情報を売る。
ただ、この情報は価値が高いとも言ってたよな…3日でそれ相応の価値をつける情報があったのだろうか?
…まぁ、あるか、校長の情報とか?それをたまたま知ってる奴が現れて、たまたまダチと情報を共有して?流された?…無理があるような気がするなぁ。
茶髪さんには言ってないし違う。
じゃあ、第三者が知っていて、たまたま俺らが生徒会室に呼ばれた時に流された?
もう、これならたまたまじゃないじゃん。
じゃあ誰が——————————————
いつの間にか、彼女は手を下ろしていた。
「あなたじゃないなら誰?」
「…」
なんとなく震えているように見えた。怖がっているようにも。
…かあさんが頭にちらついてしまった。
「…好きなのか?」
「…あなたには関係ない」
「あるな。答えはどっちでもいい。ただ、その答えで俺の言うことが変わる」
「…私は—」
キーンコーンカーンコーン
昼休み終わりのチャイムが鳴る。
「放課後、屋上」
「え?」
「とりあえず30分待つから、来たいと思ったら来てくれ。じゃあな」
休憩所を後にする。
そして、少し急いで教室へ向かった。
——————————————————————————————
放課後になった。
俺はダチに確認していた。あの情報を流したかを。
「…ある日、見つけたんだよね、気になるラーメン屋」
「は?」
「結構おいしいらしいんだよ、食べてみたくないか?」
「…何円?」
「1000円かな、一人」
2000円かぁ。まぁそのぐらいなら…
「替え玉もほしいかもなぁ」
「ああ!買った買った、もう勘弁してくれ…」
「うっしゃー」
「んで、どうなんだよ」
「流してない」
「そっか…じゃあな」
「用事?」
「まぁな」
教室を後にする。
そして、屋上に向かった。
—————————————————
屋上の扉は…空いていなかった。
ええ?そんなことある?
屋上で待つって言っちゃったんだけど…
かっこ悪ッ。
仕方なく手すりを背もたれにして立って待つ。
…。
……。
…………。
待たされることは嫌いじゃない。嫌いじゃなくなった。
その間に考え事ができる。
今回の場合、彼女のことを考える。
どうすりゃ性格が悪くなるとかな。
この答えは単純だがな。
…まぁ、いろんなことを考えるといろんなシチュエーションに対応できる。
彼女のほしい言葉は何だろうな?
…スマホを確認してみたら、30分以上経っていた。
あーあ。次はスマホできっちり計っておこう。
階段を降りようとしたとき、誰かが上がってくる。
やっと来たか…
「来たわ」
「お前一人か?」
「不本意ながら」
こいつなら、俺を嵌めよう企んで何かしてくると思っていたんだが…
「今日配られたでしょ?見てないの?」
いじめはダメのプリントのことか。
「それでも、お前ならやると思っていた」
「ずいぶん野蛮だと思われているようね」
「そのものだろ」
今日なんか胸倉を掴まれたしな!
「そんで、答えられるのか?」
「ええ」
…
「少なくとも好意はあるわ」
「知ってた」
「お前ッ」
「まぁ待て。俺は昨日知った。お前の話し方で察した。お前は隠しているつもりだったかもしれないけどな」
「…」
「そしてダチに聞いたら。『そんな噂もあった』と言っていた」
「…嘘」
「嘘じゃない。少ない人間かもしれないが、お前のことを知っていた人間はいるということだ」
「…」
「隠しきれないお前も悪いが…」
大きく息を吐く。そして吸う。
「噂を広めて面白がっている人間がいるのかもな」
「…知ってるわ。そういう人たちがいることは」
「だろうな」
かわいいからな、こいつは。
いい意味でも悪い意味でもちやほやされてきたんだろう。
「何故かしらね。この学校なら大丈夫だと、思ってしまった」
「ふうん」
何かこの学校にはあるんだろうか?気になる。
「これで、この話は終わりだ」
「何故、話してくれたの」
…
「なんとなく」
「そう…」
「…じゃあな、」
噂なんて気にするな、とか言うつもりだったが、俺の思う噂とこいつの思う噂はレベルが違うと思ってやめた。
階段を降りていく。その途中で、
「待ちなさい」
と言われて、振り返る。
「まだ何かあるのか?」
「協力しなさい」
「は?」
何を言ってるんだこいつ…。
「協力しなさい」
「…何を?」
「噂を広めた奴を捕まえて、晒上げることによ」
えぐっ。
「どうして俺が協力しなきゃいけないんだ?」
「乙女の秘密を知ってしまったからよ」
…本当に何言ってんだこいつ。
笑うのを堪えながら…
「なら隠し通せ。」乙女なら、とは言わなかった。
「それにあなたは嘘をついたからよ」
「嘘?」
「私がB先生のことを好きだということを知りながら、私を弄んだ」
昼休みのことか。
「言い方が悪い。」
「私の心持ちの問題よ。少なくとも私はそう思った。」
「…」
「なら責任をもって協力すべきじゃない?」
「弱いな」
「…」
「なら、お前に嵌められそうになった俺の心の責任を取ってくれよ」
「…何をすればいいの?」
分からないのか…。
ほんとにこいつは悪いと思ってないんだな。
溜息を我慢し、言った。
「謝れ」
「…」
「俺を貶めようとしてごめんなさいってな」
「…」
「そしてもう二度とこんなことはしないって誓え」
「…」
「そしたら協力する」
…俺はどっちでもよかった。
謝れば協力関係、俺まで嵌めようとした奴の顔拝めるチャンスになる。
断れば無関係、こいつと縁が切れる。
ただ、謝れるわけがない。
自己防衛みたいなものだ。
こいつは自分を守るために誰かを陥れていた、と思っている。
今まで使ってきた愛用の武器を捨てろと言っているわけだ、俺は。
だから、謝れるわけがない。
そう、思っていた。
「ごめんなさい」
「…うぇ?」
「あなたを陥れようとしてごめんなさい」
頭を下げながら彼女は続ける。
「もう二度と誰かを嵌めようとしません」
「…本当か?」
「はい、しません」
「…したら、協力しないからな?」
「はい、お願いします」
マジか…
この女のこと侮っていた。
プライドを捨てれるタイプかぁ~。
「分かった。協力するよ」
「ありがとう」
そして俺たちは協力することになった。
…ただ、俺は見逃さなかった。
彼女がありがとうを伝える前に、口が裂けたかのように笑っていたことを。