8 お兄ちゃんの彼女
「海ー!見たよー!」
新学期の教室に入るなり、私のまわりにクラスの友達が集まってくる。
「今朝、男と一緒に歩いてたでしょ!?」
「隣町のS高の制服だったよ!」
「誰なのー?あんたいつの間に彼氏できたの?」
機関銃のように言葉を発射する友達に、私は小さくため息をつきながら答えた。
「あの人は私の新しいお兄ちゃんだよ」
友達は一瞬静まり返り、また口々にしゃべりだす。
「えー?もしかしてママの再婚相手の?」
「そう。再婚相手に息子がいたの」
「何それ!?ドラマみたいじゃん!」
「あんたあんなかっこいー人と一緒に住んでるの!?」
「かっこいーったって……お兄ちゃんだよ?」
「でも全然血のつながりはないんでしょ?」
血のつながりがない…確かにあいつと私は、兄妹だけど兄妹じゃない。
私はぼんやりと心の顔を思い浮かべる。するとそのすぐ後に、あの麻利という綺麗な女の人の顔が浮かんできたから、私はあわてて頭を振った。
「ただいまぁ」
その日学校から帰ると、めずらしくキッチンからおいしそうな匂いが漂ってきた。
「お帰りー!海!」
「ママ?」
私が驚いた顔でエプロン姿のママを見る。
「どうしたの?」
「久しぶりに早く仕事が終わったからね。たまには夕ご飯でも作ろうかと」
ママはそう言って私ににっこり笑う。
「ふーん」
私はめちゃくちゃに散らかっているキッチンを見つめる。
料理嫌いなママが自分から料理をするなんて、昨日私が言ったこと、もしかして気にしてるのかな……
「あ、そうだ。心ちゃんの部屋にお友達が来てるから、これ持っていってあげて」
ママがそう言って、お盆にのったコーヒーとお菓子を差し出す。そういえば玄関に見慣れない女の靴があったっけ……
「心ちゃんのお友達って……彼女?」
「知らないけど、すっごく綺麗な女の子だったわよ」
ママが私の耳元でささやき、少女みたいにいたずらっぽく笑う。私は何も言わずにお盆を持つと、心の部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
「ありがとう」
コーヒーをテーブルに並べる私に、麻利がそばでにっこり微笑む。心は勉強机の椅子の背にもたれて、そんな私たちをニヤニヤ笑いながら見ている。
「昨日はごちそうさま。おいしかったわよ、スパゲティー」
「いえ……」
私は照れくさくて、麻利からさりげなく顔をそらした。
「海ちゃんて、かわいいし、お料理上手だし、自慢の妹さんよね?」
麻利がそう言って心を見る。
「こいつはただのお子ちゃまだよ」
心は私を見ながらおかしそうに笑う。ふん!何さ!私と2つしか違わないくせに!
「ほらな、こうやってすぐ怒るし」
「やあねぇ、心ちゃんが怒らすようなこと言うからでしょ?」
二人はそう言いあってくすくす笑い出す。
「それじゃあ、どうぞ、ごゆっくり!」
私は嫌味まじりに二人に言うと、お盆を抱えて心の部屋を後にした。