6 お料理上手
「お、うまい、この煮物!サイコーだな、海ちゃんの料理は」
夕食のテーブルで、お父さんが私の作った料理を食べながら嬉しそうに言う。
「でしょー?14歳でこんなに料理が上手な子なんて、そうそういないわよ」
ママもそう言って、ニコニコしながら箸で煮物を持ち上げる。
私は何も言わずに黙々とご飯をほおばる。
「そういえば今日の昼飯もうまかったな」
その時ポツリと心が言った。
「あら、お昼は何だったの?」
「たらこスパ、8人分作ってくれた」
私はぼんやりと顔を上げ心を見る。もしかしてこいつ、私に感謝してるのかな?
心は私を見て小さく笑うと、すぐに目をそらしてご飯を口に入れる。
「そうなの!?海はお料理上手だから、どんどん使ってやってね!」
「ママ!」
私は怒った顔でママを見る。
「そんなこと言わないでよ!私は家政婦じゃないんだから!」
「やあねえ、何もそんなこと言ってないじゃない」
「それに私だって、お料理うまくなりたくてなったわけじゃないもん。ママが仕事でいなくて仕方ないから、作ってただけだもん」
私はそうつぶやくと、何だか自分で自分がむなしくなってきた。
そうなんだ。パパが死んで、ママと二人暮しになってから、私は仕方なく毎日食事を作り続けただけなんだ。
「うん。海ちゃんは偉いよ」
その時私の耳にお父さんの声が響いた。
「海ちゃんは偉い!うちの能無し息子とは大違いだ」
お父さんはそう言って、心の頭をぐしゃぐしゃかき混ぜながら、私に微笑む。
「うぜーな、なんだよ?」
「お前も少しは見習ったらどうなんだ?料理の一つも作れないくせに」
「あんただって作れねーだろ!?」
私はそんな二人を見て、くすっと笑う。
「じゃあいつも何食べてたの?」
「よくぞ聞いてくれました、海ちゃん。俺たちはむさくるしい男二人暮しで、得意料理といえば、インスタントカレーぐらいで……」
「そんなもん自慢すんな」
「だから俺たちは海ちゃんの料理を食べれて、天にも上がるほど幸せなんだよ」
お父さんはそう言って、本当に幸せそうに私を見つめる。私は何だか嬉しくなって、胸の中がほんわり温かくなる。
その時、私の隣のママがいきなり立ち上がった。
「ママ?」
顔を上げママを見る。ママの目からは、大粒の涙があふれていた。
「ママ、どうしたの!?」
「ううん、何でもないの……何でもないのよ」
ママはそう言って私に笑いかけると、ハンカチで目を覆ってキッチンを出て行った。
「ママ……」
私は呆然とママの背中を見送る。
そしてそんな私を、お父さんとお兄ちゃんは何も言わずに見つめていた。