5 これが俺の愛情表現
「うひゃー、でかい家ー」
「心、お前すっげー金持ちの子みたいじゃん」
春休みの最後の日、私の家に高校生の集団がやってきた。
「海!リビングにジュース持ってきて。8人分!」
キッチンから玄関を覗いている私に、心がえらそーに命令する。
「あー、この子が新しい妹の海ちゃん!?」
「かわいいねー、中学生?」
呆然と立ち尽くす私のまわりに、高校生たちが集まってくる。
ほめられてるのか、バカにされてるのか、よくわからない笑いを聞きながらうつむくと、心がまたえらそーに言った。
「海!早くジュース持って来い!」
私はあわててキッチンへ駆け込む。
「おいおい、妹はもっと優しく扱ってやらなきゃ」
「そうよ、心ちゃん。かわいそうじゃない」
心は友達の言葉を聞いて、笑いながらこう答える。
「いいんだよ。これが俺の愛情表現なんだから」
はあ?愛情表現?いい加減なこと言っちゃって……
私は思いきり不機嫌な顔でグラスにジュースを注ぐ。
でもあいつのいいなりになってる私もバカだ。私の頭にママの言った言葉が響く。
『心ちゃんも口は悪いけど、すっごくいい子なのよ』
ママがあんなこと言うからいけないんだ。あんなこと言うから、もしかして優しいお兄ちゃんになってくれるかもって、ヘンな期待しちゃうじゃない……
「手伝うわよ?」
その時私の隣に、髪の長い綺麗な女の人が現れた。その人は私ににっこり笑いかけ、もう1本のペットボトルを開ける。
「あ……すみません……」
「いいのよ。ひどいわよね、あなたのお兄さん」
私はぼんやりと、その人の細い指先を見つめた。左手の薬指に、何だか意味ありげなシルバーリングが光っている。
するとその人はグラスののったお盆を持ち上げ、私の顔を見つめて言った。
「でも心ちゃんて、ホントはいい子なのよ」
私は黙って顔を上げる。
「なのに素直じゃないから、すぐあんな態度とっちゃうの。わかってあげてね?」
その人はそう言うと、くすっと笑って、ジュースをリビングへ運んでいく。
「はい、ジュース」
「お、サンキュー。麻利ちゃん」
麻利というその人が、テーブルにグラスを並べ、さりげなく心の隣に座る。そして何やら心の耳元でささやくと、二人でおかしそうに笑い出した。
「何なのよ……」
私はそんな光景を見ながらつぶやき、空のペットボトルを思いきりゴミ箱に投げ捨てた。