29 優しいお兄さん?
「ねえ、心ちゃん。マンガ読んでないで手伝ってよ。早くしないとママたち帰ってきちゃう」
リビングでベビーベットを組み立てながら、私が心に声をかける。
「そんなん、今頃作ってるお前がとろいんだ」
心はいつものようにソファーに寝転がり、雑誌をめくる。
「だって心ちゃんもお父さんも、なかなか手伝ってくれないんだもん」
「俺は忙しいの」
「どこが」
「勉強でもしてくるか。明日テストあんだよな」
心はそう言って雑誌を投げ捨てると、立ち上がり歩き出した。
「ちょっとー、ホントに手伝ってくれないの!?」
私がすがりつくような顔を作って心を見上げる。心はじっと私の顔を見つめた後、何も言わずにリビングを出て行った。
あーあ、もういいよ、わかってる。私のお兄さんはケチで、口が悪くて、全然優しくない。『私のことを思いやってくれる優しいお兄さん』は、やっぱりこの世にいないんだ。
私はしんと静まり返る部屋の中、慣れない手つきでベットを組む。だけど、何回やってもネジがうまくはまらない。
「あー、もう!」
私がいらいらしてネジを放り投げた時、心がいつの間にかリビングのドアのところに立っていた。
「そんなドライバー使ってたら、夜が明けたってできないぜ?」
心はいつのまにか持ってきた、サイズの違うドライバーを使って、私の前でネジを回す。
すると、さっきまで何をやっていたのかと思うほど、あっけなくにネジがはまった。
「うわ、すごい……」
「すごくない。お前がバカなだけだ」
「バカバカ言わないでよ!」
私が怒った顔で心をにらむ。すると心は、そんな私を見ておかしそうに笑った。
ここまで読んでくださった皆さま、いつもありがとうございます。
このお話も、次回で最終話となります。
長い間読んでいただき、ありがとうございました。
あとほんの少し、お付き合いいただければ嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。