表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

25 遠い記憶

 次の日は快晴だった。私は何度もしつこく鳴り響くチャイムの音で目が覚めた。

 昨日はなかなか眠れずに、うとうとしだしたのは確か明け方だった。時計の針はもう10時を回っている。

 もう一度鳴ったチャイムの音に、私は眠い目をこすりながら、玄関へ向かった。

「こんにちは。心ちゃんいる?」

 玄関を開けると、そこには麻利が立っていた。

「あ、たぶん、部屋に……」

 私は急に自分のパジャマ姿が恥ずかしくなって、思わずうつむき足元を見る。

 しかしいつも玄関に脱ぎ捨てられている心の靴が、そこには見当たらなかった。

「昨日の夜から携帯に電話してるんだけど、全然でないからちょっと気になって……」

 麻利の言葉に私はあわてて心の部屋のドアを開ける。しかしそこに心の姿はなかった。

「どうしよう……心ちゃんがいない……」

「海ちゃん?」

 麻利が心配そうに私を見る。

「どうしよう……心ちゃんがいなくなっちゃった……」

 私は急に不安になっていつの間にか泣き出していた。

 

「うん、ここには来てないけど……でも大丈夫だよ。こっちに来たらすぐ連絡するから」

 ママの病院にいるお父さんが、携帯電話で私に話す。

「うん……」

「そんなに心配しないで。ね?海ちゃん」

 お父さんは明るくそう言って電話を切った。

 私は受話器を置いて、キッチンのテーブルに座っている麻利を見る。

「心ちゃん、いなかった?」

「うん」

 私がうつむいて椅子に座ると、麻利がにっこり微笑んだ。

「だいじょうぶよ。心ちゃんの放浪癖は今に始まったことじゃないから」

 私はゆっくりと顔を上げる。麻利はいたずらっぽく笑いながら、私に言った。

「あの子、昔からそうなのよ。嫌なことがあるとすぐ家飛び出しちゃう。コドモでしょ?」

 私は黙ってそんな麻利の顔を見つめる。麻利は私から目をそらすと、窓の外を眺めながらつぶやいた。

「でもいつもは、私のところに来るのにね……」

 麻利の横顔は笑顔だったが、どことなく寂しそうだった。私は麻利に向かって思い切って口を開く。

「麻利さんは、小学校の頃から、心ちゃんのこと知ってるんだよね?」

 私の言葉に麻利が振り返り、うなずく。

「そうよ」

「じゃあ心ちゃん、小学校の時、私のこと何か言ってなかった?」

「え?海ちゃんのこと?」

 麻利が不思議そうに私を見る。私は両手を握り締めると、テーブルに身を乗り出すようにして言った。

「心ちゃん、私のこと恨んでたの。私のこと殺そうと思ってたの」

「やだ、嘘でしょ?」

 おかしそうに麻利が笑う。

「心ちゃんにそんなことできるわけない……」

 麻利はそう言った後、何かを思い出したように窓の外を見た。

「でも、そういえば……」

 麻利の言葉に、私が息をのむ。

「私、心ちゃんとこの家に来たことあるかも」

「え……」

「そうだわ……すっかり忘れてたけど……私ここに来たことある」

「心ちゃんが……ここに?」

 麻利は庭に生い茂る桜の木を見つめたあと、私に振り返って言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ