23 ママの大事な子供たち
「ママ!大丈夫!」
私が病室へ駆け込むと、ママはベッドに横になったまま、ほんの少し笑った。
「ママ……」
私は思わず涙を流し、ママの手を握りしめる。
「大丈夫よ。心配しないでも」
そばにいた看護師さんが、そんな私に優しく微笑む。お父さんもママの顔を見ると、安心したようにため息をついた。
やがて担当の医師がやってきて、お父さんに説明をする。
「過労ですね。2、3日安静にしてればよくなります。ただ、奥さんの場合、おめでたのようですので……」
「は!?」
お父さんは唖然として口を開ける。私はゆっくりと顔を上げママを見る。
「おめでたです。今7週目に入ったところです」
「ホントですか!?」
お父さんが嬉しそうに声を上げる。しかしママは困った顔をして目を閉じた。
「ママ?ママは気づいてたの?」
私の声にママがうなずく。
「どうしてそんな大事なこと隠してたんだ?」
「言えるわけないじゃない……」
ママがそう言ってお父さんを見る。
そしてそっとお腹をなでると、泣きそうな声でつぶやいた。
「この子を産んだら、心ちゃんが傷つくわ」
私は黙ってママを見つめる。
「私は心ちゃんを育ててあげられなかったのに、この子を育てたら、また心ちゃん傷つくわ」
「そんなことないよ」
お父さんがなだめるように言う。
「だってあの子、海のことだって恨んでたでしょ?きっとお腹の子のことも……」
「大丈夫だよ」
しかしママは顔を覆って泣き出した。
「ママ……」
私はそんなママの背中をそっとさする。
「ママは、その子を産みたいんだよね?」
私の声がママの泣き声と一緒に響く。
「ママは、心ちゃんを産みたかったんだよね?」
お父さんが私のことをじっと見ている。
「ママは……私を……産みたかったんだよね?」
私の声がいつの間にか涙声になる。ママは顔を上げると、泣きながら私をぎゅっと抱きしめた。
「当たり前じゃない……あんたたちみんな、私の大事な子供なのよ」
私はママの胸に顔をうずめて、子供のように泣きじゃくった。私を抱くママの手が、何だかとても気持ちよかった。
「ホントに一人で大丈夫?」
病院の前に止まったタクシーに乗り込む私に、お父さんが心配そうにつぶやく。
「大丈夫だよ。それよりお父さんは今夜一晩、ママについててあげて」
「わかった……」
お父さんがうなずき、タクシーのドアが閉まる。私はにっこり笑って、雨の中に立つお父さんに手を振る。
そしてゆっくりと走り出したタクシーの中で、ぼんやりと心のことを考えていた。