表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

22 考えたことあるの!?

 玄関のドアを開けると、今にも雨の降り出しそうな生暖かい風が、私の頬に吹き付けた。

 私は目を細めて、庭先に立つ二人の影を見つめる。

 二人は緑の葉の生い茂る、パパの大好きだった桜の木の下で、抱き合ってキスをしていた。

 私は麻利の帽子を握りしめ、ただその場に立ち尽くす。

 やがて二人はゆっくりと離れ、玄関先につっ立っている、私の姿に気がついた。

「やだ……海ちゃんに、見られちゃった?」

 麻利はそう言って恥ずかしそうに笑う。

「もう行けよ。バス来るぞ」

「うん。それじゃ」

 心の声に麻利が手を振り庭を出て行く。

「あ、麻利さん!これ!」

 私があわてて帽子を振ると、麻利は振り返ってにっこり笑った。

「ありがとう」

 私は麻利の唇を見つめ、この間、私に触れそうになった心の唇を思い出す。

 麻利はそんな私を残し庭を出て行った。

 

「送ってあげないの?」

 私がつぶやく。心はチラリと私を見て言った。

「いいんだよ。今日は一人で帰るって」

「ふーん」

 私はそう言って心を見る。心は私から目をそらすと、黙って桜の木を見上げた。

 風はだんだんと激しくなり、緑の木の葉を大きく揺さぶる。

 そんな木を見つめる心の横顔に、なぜか胸が痛くなった。

「心ちゃん」

 私の声が風にかき消されそうになる。

「この前なんであんなこと……」

「俺にキスされると思ったんだろ?」

 心が振り返って私を見る。

「あせってやんの。誰がお前みたいなガキにキスするか」

 私は黙って心を見つめる。心はそんな私のことをバカにするように笑う。

「心ちゃんはコドモだね?」

「何?」

 強い風が私の髪をなびかせ、空からポツリと雨が落ちる。

「そうやって大人ぶっているけど、中身は全然コドモだね?」

 心が私をにらみつける。

 私はその目をそらさずに、思いきって口に出す。

「いつだって一人で被害者ぶっちゃって……お父さんとママがどれだけあんたのこと大事に想ってるのか、考えたことあるの!?」

 空からの雨が顔に当たり、いつの間にかあふれた涙と一緒に、私の頬を流れ落ちる。

「それがわからないあんたは子供と同じだよ!」

 心はじっと私を見つめて、やがて低い声でつぶやいた。

「偉そうに言うな」

 私は涙を流しながら唇をかみしめる。

「お前なんかに俺の何がわかるんだよ?」

 その時玄関のドアが開き、お父さんが飛び出してきた。

「心!海ちゃん!お母さんが倒れて救急車で運ばれた!」

「え?」

 私は驚いてお父さんを見る。心もゆっくりと顔を上げた。

「俺はこれから病院へ行くから!お前らも来るか!?」

「私も行く!」

 お父さんの後について、ガレージへ駆け出す。

「心は!?」

「俺は……行かない」

 私は立ち止まり心を見る。心は私と目を合わせないように顔を背けている。

「海!行くぞ!」

 お父さんの声を聞き、私は心を残し車に乗った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ