22 考えたことあるの!?
玄関のドアを開けると、今にも雨の降り出しそうな生暖かい風が、私の頬に吹き付けた。
私は目を細めて、庭先に立つ二人の影を見つめる。
二人は緑の葉の生い茂る、パパの大好きだった桜の木の下で、抱き合ってキスをしていた。
私は麻利の帽子を握りしめ、ただその場に立ち尽くす。
やがて二人はゆっくりと離れ、玄関先につっ立っている、私の姿に気がついた。
「やだ……海ちゃんに、見られちゃった?」
麻利はそう言って恥ずかしそうに笑う。
「もう行けよ。バス来るぞ」
「うん。それじゃ」
心の声に麻利が手を振り庭を出て行く。
「あ、麻利さん!これ!」
私があわてて帽子を振ると、麻利は振り返ってにっこり笑った。
「ありがとう」
私は麻利の唇を見つめ、この間、私に触れそうになった心の唇を思い出す。
麻利はそんな私を残し庭を出て行った。
「送ってあげないの?」
私がつぶやく。心はチラリと私を見て言った。
「いいんだよ。今日は一人で帰るって」
「ふーん」
私はそう言って心を見る。心は私から目をそらすと、黙って桜の木を見上げた。
風はだんだんと激しくなり、緑の木の葉を大きく揺さぶる。
そんな木を見つめる心の横顔に、なぜか胸が痛くなった。
「心ちゃん」
私の声が風にかき消されそうになる。
「この前なんであんなこと……」
「俺にキスされると思ったんだろ?」
心が振り返って私を見る。
「あせってやんの。誰がお前みたいなガキにキスするか」
私は黙って心を見つめる。心はそんな私のことをバカにするように笑う。
「心ちゃんはコドモだね?」
「何?」
強い風が私の髪をなびかせ、空からポツリと雨が落ちる。
「そうやって大人ぶっているけど、中身は全然コドモだね?」
心が私をにらみつける。
私はその目をそらさずに、思いきって口に出す。
「いつだって一人で被害者ぶっちゃって……お父さんとママがどれだけあんたのこと大事に想ってるのか、考えたことあるの!?」
空からの雨が顔に当たり、いつの間にかあふれた涙と一緒に、私の頬を流れ落ちる。
「それがわからないあんたは子供と同じだよ!」
心はじっと私を見つめて、やがて低い声でつぶやいた。
「偉そうに言うな」
私は涙を流しながら唇をかみしめる。
「お前なんかに俺の何がわかるんだよ?」
その時玄関のドアが開き、お父さんが飛び出してきた。
「心!海ちゃん!お母さんが倒れて救急車で運ばれた!」
「え?」
私は驚いてお父さんを見る。心もゆっくりと顔を上げた。
「俺はこれから病院へ行くから!お前らも来るか!?」
「私も行く!」
お父さんの後について、ガレージへ駆け出す。
「心は!?」
「俺は……行かない」
私は立ち止まり心を見る。心は私と目を合わせないように顔を背けている。
「海!行くぞ!」
お父さんの声を聞き、私は心を残し車に乗った。