表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/30

11 泳げない理由(わけ)

「夏休みになったら、海に行こうか?」

 私の作った夕食を食べながら、お父さんがにこやかに笑う。

「いいわねー、白浜あたりどう?」

「お、いいねー。海ちゃんと心も行くだろ?」

 そう言ってお父さんが私と心の顔を見比べる。

「げ、冗談だろ?高2にもなって、誰が家族と旅行なんか行くか」

「無理すんなよ?海だぞ、海。お前海好きだろが?」

 お父さんが箸を持った手で、隣の心をつつく。心はうんざりしたような顔でつぶやいた。

「海だったら、麻利と行くからいい」

 その一言で和やかな家族の食卓がしんと静まる。お父さんは笑ってごまかしながら、今度は私に顔を向ける。

「海ちゃんは行くだろ?」

 私はそんなお父さんを見て苦笑いをする。

「私も行かない。だって泳げないんだもん」

「えー?『海ちゃん』なのに泳げないの?」

 お父さんがおかしそうに笑う。私もつられて笑いながら、お父さんに向かってこう言った。

「私子供の頃、川でおぼれかけて……それから水が怖くてダメなんだ」

 私の言葉に一瞬また食卓が静まり返る。え?私何かヘンなこと言った?

「ど、どうしたの?みんな黙りこんじゃって……」

 私がお父さんとママの顔を見回した時、いきなり心が立ち上がって言った。

「じゃあ泳ぎの練習でもしてくるんだな。また誰かに突き落とされても、おぼれ死なないように」

 心は私を見てふっと笑うと、一人キッチンを出て行った。

 私は呆然とそんな心の背中を見つめ、あの日のことを思い出す。

 あれは私が小2の時、学校帰りに見知らぬ男の子が声をかけてきた。

 

「海ちゃん。一緒に帰ろう」

 その子は隣町の小学校の名札をつけていたのに、なぜか私の名前を知っていた。

「いいよ」

 私がそう言うと、その子は嬉しそうに笑い、私の手をひっぱった。

「あっちの川沿いの道を歩こうよ」

「え、でもあそこは危ないから、ママが通っちゃダメだって……」

「へいきだよ!おいで!」

 私はその子に手を引かれ、引きずられるようにして川沿いを歩く。

 おかしなことにその子は、私のパパが死んじゃっていないことも、私のうちに大きな桜の木があることも、何もかも知っていた。

「ねえ……どうして私のこと知ってるの?」

 私が立ち止まりつぶやくと、その子はほんの少し笑ってこう言った。

「僕はお前が嫌いだから」

 次の瞬間、私は背中を突き飛ばされ、川の中へ落とされた。

 水が、目に耳に口に入り込み、息が苦しくなる。

 たすけて……声にならない声を上げた時、土手の上から私のことをじっと見下ろしている、男の子の姿が見えた。

 

「ママが話したのよ、心ちゃんとセンセーに。海ちゃんが知らない子に突き落とされて、おぼれかけた話」

 呆然とする私の顔をママがにっこり笑って覗き込む。

「ごめんな、海ちゃん。嫌なこと思い出させちゃったみたいでさ」

 私は顔を上げ、お父さんに笑いかける。

「大丈夫だよ、あの時はすぐに大人が飛び込んで助けてくれたし……」

「しかし心のやつ、何であんな言い方するんだろな。あとでお父さんが、一発殴ってやるからな」

 お父さんはそう言って私の前で力こぶを見せる。私はそんなお父さんを見て笑いながら、必死に昔の記憶を呼び戻していた。

 あの子の、胸についてた小学校の名札。

 全部の漢字は読めなかったけど、2年生の私が読める漢字が一つだけあったはず……

 --『宇和野心』

 私の頭にその4文字がぼんやりと浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ