怠けん坊知事〔14〕
「最後にもう一つ。真之介さんと孝さん、森市と岸畑のブロックワードって何でしょう。一言で言えますか。」
梯の問いに和夫は
「父は〔見える〕、孝さんは〔落ちる〕森市は〔転がす〕、岸畑は〔盗む〕だろう。」
と簡潔に答える。
「真之介さんと孝さんの方は解りました。森市と岸畑の方は説明をお願いします。」
梯は再度和夫に頼み込む。
「森市は〈創造能力は緑茶より自分の方が上だ。掌で転がしてやる。〉の〔転がす〕。岸畑は〈緑茶の原稿を手に入れて売り込んでやる。緑茶の口遊んだ曲は俺の曲で先にに公開。〉の〔盗むだ〕。因みに真と実は〔謝罪〕だ。」
と身内のブロックワードも喋った。
「ちょっと待った。それじゃ説明になってないですよ。それにブロックワードは使い方が重要です。」
和夫の影から真の声がした。
「ブロックワードと言うからには何かをブロックする単語もしくは言葉なんですよね。今一つはっきりと理解できていません。」
田網も和夫に尋ねると照明でできた和夫の影に視線を移す。
「当然ブロックワードとは行動を抑制する単語。脳内でブロックワードを意識するとまずワードに対する罪悪感や抵抗感がなくなる。これが影の覚醒。父はこの段階までだった。脳内で影を意識して影を動かしたり影になれれば影化、二次元での展開になる。更に影装を意識して頭の中でブロックワードを唱えると三次元展開となり実体化する。詠唱と変身ポーズを連動させる方が誤作動がない。思い浮かべるだけで変身したらそれは怪物だ。魔法だって呪文なしの妄想だけで発動したら大惨事になる。」
真ではなく和夫が答えた。
「せっかくだから和君、南蛮男に変身して見せて。私も最近知ったの。」
栞が和夫を挑発した。和夫は
「仕方ない。やるか。」
「クック・ゴー」
和夫は鶏が翔ばたく動作から腰に拳を当てるヒーローポーズを取る。すると和夫はついさっき栞と話した南蛮男に変身した。
「本当に出来るのか。」
「初めて見ました。」
田網と梯は冷静に反応した。
「仮装の神武男より似合ってるわ。」
栞は手をパチパチと叩いてよろこんいる。
「真さんと実さんはどうなんですか。」
田網が自分の影に話しかけると、田網の後に中世ヨーロッパの騎士が現れた。甲冑は黒い。
「いつもと違う黒騎士ですね。」
と梯が言うと同時に黒騎士は消えた。
「一人ですか。」
田網は尋ねる。
「実君は朱美ちゃんの所に戻ったはずよ。今頃、オレンジ・スクイーズ掛けられてるかもね。」
栞が言うと田網は
「何ですか、それ。」
と知りたそうだ。
「プロセス技のヒップ・プレスと鯖折りの連続技。」
今度は和夫が答える。
田網は南蛮男の影に
「真さんは詠唱や変身ポーズがありませんでした。どうしてですか。」
と尋ねる。
「そのうち分かるよ。」
と真は影の中から答え、
「岸畑のブロックワードは厄介極まりない。岸畑の口癖は自分の盗みに対して〈許してくれるなら謝ってやる。〉で罪悪感が無い。ブロックが曖昧になる。能力面では影化は無理だが影装は可能だ。」
と付け加えた。
「影装の岸畑を見たんですか。」
梯も田網の影に向かい話しかける。
「〔吸血鬼族〕のバンド名そのまんまだ。バンドのリーダーで演奏名は吸血貴。イケメンの長身ならもう少し売れただろう。」
真の言葉を聞き、和夫は
「枕強要の楽ちゃんだけに吸血鬼か。番組のアシスタントを眷属と言うからな。」
と言い終えると南蛮男から西都原和夫に戻った。
「枕の時に桃化させるのかしら。先生は知っていたんてすか。」
梯が田網の影に言うと真は
「勿論だ。だから実に短袴亜莉須巡査の影に入ってもらいすぐに桃化されていると分かった。実は朱美にも相談したが朱美は専門外だから対処できない。」
と答えた。
「それでは短袴巡査を操っていたのは岸畑楽か。」
田網は少し声を荒げて言った。
「その通り。当時は状況が見えずに放置した。」
真が簡潔に答えると、田網は
「経緯を聞かせてください。」
と言った。
「俺達は先生を操れなかった。森市経由で宮祭香を操る戦術に切り替え、実が宮祭の影に入ると既に森市の眷属化していた。そこで先生に貸しを作る太陽作戦にした。宮祭と短袴巡査は先生をストーカーに仕立てる為の被害者と担当警察官だろ。先生には情報を随時流す。」
真が喋り終えると
「童話〈北風と太陽〉の太陽かしら。でも先生なら腐れ縁が増えたって喜びますよ。」
と梯が言う。
「だろうな。だが今回も宮崎の危機だ。どげんかせんといかん。」
西都原が在任中に多用した言葉を言うと、栞は
「じゃっとよ。」
と笑う。




