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怠けん坊知事〔12〕

「それからもう1つ。」

 梯が言うと、

「ヨレヨレコートの刑事さんだな。」

と和夫は笑う。栞も空かさずに、

「次は〈(ウチ)の母さんがね。〉かしら。」

と更に突っ込んだ。梯は

「作家の先生がです。」

とそれらしく合わせ話を続ける。

「先生の歴史小説には〘三年殺し〙とか〘七年殺し〙が登場しますが、影はその実行役だったのかどうか。ご存知ないですか。」

 梯だけでなく田網も影が暗殺者となったら対処できない事を充分に承知している。呼称は魑魅魍魎対策室であっても構成員は普通の人間で陰陽師や魔術師・魔導師の類ではない。

 和夫は気になるのか

「影は脅しの術は極力使用しない。梯捜査官は知っているだろうが田網捜査官には説明した方がいいんじゃないのか。」

と梯と田網の顔を見た。

「お願いします。」

と田網は言った。

「三年殺しを使うならまずは三日殺しからだ。ぶっちゃけ脅し文句と見せしめ。これなら警察も脅迫罪や殺人未遂・殺人罪で動けるでしょう。具体的に言うなら見せしめに一人選んで〈今の技は三日殺し、急所経穴を突いた。お前は三日後に死ぬ。〉と言い、ホントに三日後こっそりと()ればいい。すると三年殺しも効いてくる。三年間巻き上げる訳だからこの場合は脅迫罪や恐喝罪も適用できませんか。」

 和夫が説明すると

「なるほど。」

と田網は頷いた。

「検察官と裁判官には暗喩だと理解して貰えばいいわ。」

 梯が補足した。

「先生は坂本龍馬の近江屋事件を幕府の仕掛けた三年殺しで設定して短編を書きたいみたいだ。だけど〈坂本龍馬のファンに恨まれるどころじゃ済まない。〉と執筆を躊躇っている。」

 和夫の話を聞いた梯は

「想像はつきますけど、知ってるなら聞かせて貰えますか。捜査の参考としてです。」

 梯の言葉を聞いた田網も頷いている。和夫は喋り始めた。

「龍馬暗殺の実行犯は京都見廻組と言うのが最有力説なのは知っていると思う。幕府は薩長を脅すため龍馬を三日殺しの見せしめに選んだ。十二月七日に中岡慎太郎の前で龍馬は三日殺しの経穴を突かれた。仕掛けたのは隠密の柳生忍軍か服部軍団あたりだろう。誤算は龍馬が三年殺しと三日殺しの奥義を知っていた事。それで龍馬は風邪気味だと近江屋に隠れていた。呪術妖術ではないから標的の居場所を突き止め実行役が必要。そんな話だよ。そして坂本龍馬が見せしめに選ばれたのは文官(せいじや)ではなく武官(ビジネスマン)だったからだろう。仮に生き延びたとしても薩長の傀儡総理の可能性が高い。現に日本史の教科書から消え始めている。こんな小説を龍馬信者が読んだら後が怖い。」

 和夫が語り終えると田網は

「勉強になります。」

と言った。すると栞が

(ざー)君と(ジー)君の意見も聞いたら。実君は朱美ちゃんと仲良し終わったの。直ぐに梯捜査官に会いに来て大丈夫かな。」

と梯の影に話し掛けた。

「ママ、最後は余計。」

と実の声がする。

「あら、ホントに居たのね。」

と栞が言い和夫と田網は爆笑だ。笑い声が落ち着くと真の声がした。

「情けない弟よのう。それより森市以上に岸畑 楽(きさばたけがく)の方が要注意だ。岸畑は『不老不死の館』と言う曲を作り〈オマエもアンデッドにしてやろうか。〉のセリフで始まる。しかも〘頂戴女子フーちゃん〙こと石田真希(いしだまき)宮祭 香(くさいかおり)桃化(とうか)させてるぞ。」

 笑っていた栞は真顔になり、

「桃化ってなんなの。」

と和夫の影に尋ねる。

「恋愛感情の遠隔操作、キューピットの桃色の矢だ。ターゲットは金持ちのお年寄りだから始末が悪い。」

 真は栞に説明した。

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