怠けん坊知事〔10〕
暫く沈黙が続いた後、西都原和夫は喋り始めた。
「父は〈戦争体験が脳を覚醒させた。〉と言いました。赤井田孝さんがどうしてるか気になると、おぼろげながら見えるようになったそうです。おぼろげながらと言うのは、飛行機の模型を作ったり少年少女航空団の指導をしている姿がボヤケて見えるのだそうです。」
和夫が喋り終えると梯は
「意識が孝さんの影に入ったのかしら。」
と言い、和夫は
「そうだと思う。そして孝さんの長男、つまり緑茶先生が高校を卒業する頃にとんでもない光景を見てしまった。孝さんがキ-183でB-29を反復攻撃する映像はいつしか孝さんが息子を殴り続ける映像になり先生が倒れたところで終わった。驚いた父は直ぐに孝さんに電話した。」
「実際どうだったの。」
梯は即座に口を開いた。
「以前、先生にその事を尋ねてみたら〈ブロックワードを言ってしまった。〉笑っていた。」
和夫はそう答え口調もいつものように常体に戻った。梯は
「以外なところが先生らしい。」
と納得している。
「先生の弟さんは〈あの時の親父が一番怖かった。倒れるまで殴り続けたから兄は死んだと思いました。〉と言っていた。お母様は頭を冷やしながら寝ている先生に〈アンタ、それだけは言っちゃいかんよ。〉と言い、孝さんには〈あんたは死神やからね。〉と言ったそうです。」
和夫がここまで話すと田網は
「ブロックワードとは何だったのですか。」
と質問して来た。
「〈日本はアメリカの属国になった。太平洋戦争に負けたからな。〉と言ったらしい。更に〈B-29の東京空襲野放しか、原爆なんか二発も落とさせやがって。長崎なんかキノコ雲が見える場所に居たんだろ。〉と駄目押しした。」
和夫が答えると田網は
「良く解ります。〈警察はどうして犯人を捕まえないんですか。〉と言われるのを超えてます。でも常に冷静でのらりくらりの先生が突然どうして。若い頃は尖ってたのですか。」
と再度尋ねる。和夫は
「受験の第一志望に落ちたんだ。先生が〈B公落ちずに俺が落ちた。〉と言うと孝さんは戦闘機乗りのスイッチが入り〈落ちたら終わりだ。〉と怒鳴り売言葉と買言葉の応酬だよ。」
とまるで見ていたように語る。
「生々しい。」
と梯が言い、和夫は
「先生が話してくれた内容と父の脳裏に映った映像が全く同じでビックリだよ。間違い無くその日が父の覚醒した日だ。」
とため息を吐いた。
「影化の起源ここにありね。」
と梯が言う。すると栞が
「和君にも影化の素質はあるのよね。宮崎が大変な夢を見たんでしょ。だから立候補して口蹄疫で頑張ったのよね、元知事さん。」
と言い笑う。
「俺の見たのは韓国岳が噴火して噴石が飛び散り牛や豚に当たる夢だ。もし日本が侵略を受けて新田原基地が攻撃されていたらそれは知事の仕事じゃない。」
和夫は話し疲れたのか少しグッタリしている。
「仰怪人や日向異人より西都原さんの夢に驚きました。」
田網がキリリとした顔をして話すと梯は
「田網さん、緑茶先生やハムカイザーとハムカウジーにも協力して貰いましょうよ。情報だけでも構いませんから。」
と田網に同意を促す。
「森市〆の件もある。影化が悪になる前に対策を打つべきだな。」
田網は頭の中を整理した。




