怠けん坊知事〔9〕
「緑茶五右衛門のお父様と日之影真之介さんが懇意になった理由は分かりました。真之介さんの記録は極秘事項として警察にもあります。でも緑茶先生のお父様は何者ですか。何も記録がありません。」
梯 絵楠は和夫に尋ねた。
「死神だからな。」
梯は和夫の顔を見た。田網も和夫の顔を見ている。二人とも声が出なかった。
「これだけでは解らなくて当然です。戦時中、戦果報告機の操縦員はそう呼ばれてたんです。」
和夫は淡々と喋る。
「正確な情報を入手する重要な任務ですよね。」
梯は相槌を打つ。
「先生のお父様は|赤井田 孝《あかいだたかし》、その兄が忠、陸軍航空隊から航空自衛隊に渡っての優秀なテストパイロットだった。新田原基地にいた事もある。」
和夫の表情は険しくなり言葉も敬体から常体へと変わった。
田網は
「赤井田忠さんなら聞いた事あります。凄腕のパイロットだと。」
と話に割り込み和夫の話を止めた。
「そうですね。忠氏は大本営が怒り狂うくらいに戦況を冷静かつ正確に報告しました。それで死神と言われるようになりました。忠さんも孝さんも戦闘には参加せず上空から傍観、帰還時に攻撃された時のみ空戦。必ず帰って来るので戦死者の家族や関係者からは死神に見えたでしょう。」
栞、田網、梯は黙って和夫の話を聞いていた。
「忠さんは終戦まで戦果確認の任務でしたが孝さんは試作機の操縦員になりました。そしてキ-183です。終戦後、進駐軍はジェット戦闘機の資料を探しましたが見つけきれませんでした。かなり早い段階で処分したようです。特に朝鮮戦争の頃は進駐軍も必死で、陸軍の諜報員がソ連に資料を売り渡したのではと疑いました。太平洋戦争で本土空襲したB-29の従軍記者のカメラには既にソ連のミグ15が映っている。」
静まり返った店内に栞が洗い物をする音だけが響く。
田網と梯は顔を見合わせた。




