怠けん坊知事〔8〕
西都原和夫は父日之影真之介について語り始めた。
「既にご存知かと思いますが、父は逆賊扱いをされていました。ミッドウェー海戦での偵察飛行で持ち前の視力から米機動部隊の空母を発見したのに黙っていたからです。父はその事を後悔していません。真珠湾、ミッドウェーと連勝していたら米軍はもっと沢山の原爆を使用したはずたと言ってました。一方、自分には人と違う能力があるんじゃないかと不安がっていました。ミッドウェー海戦の前夜、父が見た夢では先に米空母を発見して撃沈、この勝利で太平洋戦争は昭和二十一年まで続き原爆は七発投下されたそうです。これだけなら単なる正夢かの範疇ですが、朝鮮戦争が始まってミグ15の存在を知った時にゾッとしたと言いました。」
ここまで話すと和夫は一息吐いた。栞が
「ミルク烏龍茶よ。」
とグラスを三つ用意して西都原、田網、梯の前に置き、
「前に置いただけよ。」
とニッコリ笑った。和夫はミルク烏龍茶にガムシロップを入れるとゴクゴクと半分程飲みハァッと息を吐く。
「ミグの説明をしますね、田網さんはとにかく梯さんには説明しないと。」
和夫がそう言うと梯から以外な言葉が返って来た。
「分かります。ミグ15はドイツの試作機Ta183にソックリな戦闘機ですよね。」
梯が言い終えると田網は
「俺より詳しいな。」
と驚いた顔をしている。
「緑茶先生の『玉蟲』って短編小説に出て来ます。」
今度は和夫が驚いて梯に尋ねる。
「緑茶先生は小説化してるのか。」
梯は
「会員限定の街興し小説です。」
と即座に返す。
「だったら話を続けます。父はミグ15の存在を知った時、自分は未来が見えるのかと怖くなったと言いました。昭和二十年、B29が都城上空を通過した日にミグを見たからです。」
「それって陸軍の試作機キ183〔玉蟲〕だったとか。実話なのかしら。」
和夫の話を遮るように梯は口を挟む。
すると
「『玉蟲』に私の父らしき人物は登場しますか。」
と今度は和夫が梯に尋ねる。
「それはないです。戦時中の迎撃と戦後お孫さんと虫捕りをする話ですから。」
梯が答えると和夫は
「そうですか。では戻します。」
と、再び真之介について話し始めた。
「父は視力が良かったので地上からも高高度からミグが単独でB29に反復攻撃を仕掛けるのが見えたそうです。戦後、そんな戦闘機は存在しないと知った際にはまた未来を見たのかな程度だったのですが朝鮮戦争で実際にミグはB29を撃墜した。父は自分が嫌になった。そんなある日、父は緑茶先生の父と知り合います。場所は母智丘で一人桜を見に行った帰りに陸軍飛行場跡に寄った日です。共に米軍と戦った陸海軍の士官なので戦争が早期終結できなかったかを話したそうです。話をするうちに父が〈ここからミグ15を見た。〉と言うと緑茶先生の父が〈おそらくそれはキ183〔玉蟲〕で、乗っていたのはわたしです。〉と言ったそうです。幻覚ではなかったのだと父は心が軽くなり、呪縛から解き放たれたと言いました。暗い影が自分から離れて行った感覚だったとか。この話、子や孫にはせずに曾孫でも真君と実君だけに話したそうです。」
和夫が話し終えると田網が
「揉め事の早期解決をする光とその補佐役が影か。本来の姿は表裏一体。」
と言った。




