『怪盗vs学者〔5〕』
「随分大人になったわね。昔の面影が全くないわ。お姫様よりスーパーモデルね。」
「陳腐な表現の社交辞令ですか。それより歳を取らないあなたの方が不思議です。年を取らないのか、年を取ってないように見せているのかは判りませんけど、変装したらAIの顔認証システムも役に立たない。顔も体型も別人。」
直美が話しかけるとクラリスは返した。二人は路地裏で会話を続けた。
「もし私が〈本当は人間ではなくて人造人間なの。〉って言ったら信じる。」
「すぐには信じません。〈髪の毛と爪と皮膚を少し下さい。〉って貰ってから科学的に解析分析するわ。それとは別で世襲制か高度に訓練して統制のとれた組織の構成員だとも仮定します。怪盗も銃士も剣士も、そして女も複数いてそれは通り名。そう考えても不思議じゃない。」
「じゃあ、私が色んな姿であなたの国の大臣の裏切りを克明に説明できたとしたら、これまでのあなたとの会話を正確に再現出来たらどうするの。」
「単なる情報の共有です。逆に辻褄が会い過ぎるのも不自然。」
「逆に裁判では問題視されそうってこと。」
「だから人はメモを取ります。記録を残します。裁判で過去の供述と今の発言が違うと指摘してもそれは単なる記憶違い。物理的科学的証拠が必要です。だって私、怪盗の記憶は鮮明なのに愛人は魅力的だけど少し意地悪な女くらいの記憶しかありません。」
「ありがとう。褒め言葉だと取っておくわ。それじゃあ、タクシー呼んで空港に行きましょう。」
「怪盗が来るんてすか。」
「来るのは大学教授よ。私、怪盗の記憶は不鮮明だから予定なんて知らない。夜になったら勝手に来るわよ。暴発した短銃は日本製でしょ。だからFBIが警察庁に依頼して東大学の水下 輝教授を呼んだ訳ね。私、水下輝教授の記憶は鮮明なの。」
直美はクラリスの言葉を拾って返したが、肝心のクラリスは
「夜になったら怪盗が来るんですか。今夜ホテルは直美さんとツインで構いませんか。」
と上の空になってしまった。そんなクラリスに直美は以前のクラリスを重ね〈やっぱりこの子可愛いわね。〉と憎らしくなった。




