『怪盗vs学者〔4〕』
「それではボス、行ってきます。」
「気をつけて行ってこいよ。怪盗の友人寺原 太輔が来てる。銃が絡むと怪盗もだが寺原の出番だ。」
お出かけの挨拶にテリーが一言付け加えた。
「お姫様に会えるかしら。楽しみ。」
直美がテリーに返した。最後の〈楽しみ〉の声色だけは怪盗の愛人だった。
直美が事務所を出て歩いていると数十秒で尾行に気付いた。尾行されるのは慣れているので気にならないが、今回は相手を少し誂ってみる事にした。直美は定石通りに人気のないそして比較的安全な路地裏に入り尾行者を誘う。ショルダーバッグからベビー南部を取り出すとバッグを開けたままグリップを握りやすいようにバッグに縦に戻した。直美のバッグはブランド品の余り大きくはないオーダーメイドなのだがベビーを収納するスペースがあり、ベビーを縦に固定できるように仕切りがあった。
直美は壁を向いてバックに左手を入れコンパクトを取り出すと化粧を直すフリをして尾行者を確認した。尾行者が直美の横を通り過ぎる。オーダーのバッグはある程度重量のある物を入れても型崩れしないように少し厚めの皮が使用されている。そしてそれに見合った太さのストラップと金具が使われていた。ベビー南部は全弾装填すると600gを超える。
〈間違いない。あの女だわ。〉
尾行者は直美を見失わないように立ち止まり振り返ろうとした。
「振り向かないで、クラリス=ジャンヌ・ド・アプスブール=ロレーヌ。お姫様はお城から出るときは護衛が要るでしよ。オジサマは何してるのかしら。梁井・ハロルド・フランシス・保太じゃ護衛にならないわね。寺原太輔が現れると魔法を使ったみたいに突然消えるもの。ダーティー梁井よりマジック梁井がお似合い。」
その声は田中直美ではなく愛人の声だった。クラリスは両手を頭の高さに上げたまま、
「オジサマとは会ったの。」
と直美に尋ねる。
「お姫様、両手を降ろして振り向いてくださいませ。まるで私が銃でも突き付けてる様に見えますわ。」
直美は問いには答えずに言った。左手人差指がクラリスの背中に押し付けている。右手はバッグに挿したままの南部のグリップを握っていた。
「普通に喋ってください。それとクラリスで構いません。」
「じゃあクラリス、こっちを向いて。」
振り返ったクラリスは直美を睨みつけた。
直美は微笑みながら喋る。
「怪盗さんは寺原と一緒じゃないかしら。だから梁井坊やの子守りしてれば会えるわよ。それがFBIから要請されたあなたの仕事でしょ。でも心の声は〈早くオジサマに会いたい。〉ってところかしら。協力するわ。」
クラリスの険しい表情から一瞬笑みが漏れた。
「あら、可愛い。」
直美は妖艶な表情で返した。




