『怪盗vs学者〔3〕』
「それではボス、私ちょっと出かけても大丈夫ですか。」
「構わんよ。」
そう言われて直美は愛銃をバッグの中に仕舞った。テリーの視線はバッグに仕舞われるまで短銃を追っていた。
「なぜ僕がルガーと南部を比較したのか解るかい。」
「解りますわ。南部式小型拳銃にはヒトラーへの献上品があります。ゲーリングへの象嵌仕様を意識したんでしょう。でも構造は観賞用のルガーではなく実用性のP-38ですもの。制作したのは東京ガス電気工業。」
直美は手入れの行き届いた南部式小型拳銃通称ベビー南部を愛用していた。しかもそれが東京ガス電気モデルであることもテリーは知っていたが、ヒトラーへの献上品に実用性があるのは初めて聞いた。
テリーは直美が東京ガス電気モデルに拘る理由も何となく解った。
「まさか献上品の南部も撃てるのか。」
「撃てるはずです。弾倉2個分くらいなら。」
テリーが問い掛けると直美は答える。
「まるで2丁を比べたみたいだな。」
「仕事柄、調べただけです。東京ガス電気には献上の記録があったとか。でもドイツ側にはありません。」
「どうしてだ。」
「ヒトラー総統が日本製を愛用していたなどと世界に冠たる第三帝国の記録には残せないのでしょう。」
「解らん、それだけか。」
そう言ったテリーに直美は
「画家志望のヒトラーに浮世絵や水墨画なら解ります。でも総統が日本の工業製品だと表には出せなかったのかもしれませんね。ヒトラーがドイツ人にしては小柄だったのも愛用した理由でしょう。私もP-38よりベビー南部がしっくり来ます。それに私は日本人ですもの。」
直美がそう話すとテリーは頷いた。




