『怪盗vs学者〔2〕』
「呆れた。こんなものをヒトラーの愛銃だってオークションに出した人がいるのね。素人だってごまかせない出鱈目な造り。」
田中直美が言うと雇い主のテリーも
「構造を見て驚いたよ。本当におもちゃだな。ルガーと南部十四年式以上の違いがある。沢耕作を騙して暗殺するために作ったんじゃないか。勿論、組織ぐるみで。だとすれば沢の会社KOKOの乗っ取りが目的だろう。」
と話す。
「ボス、黄金のP-38と暴発銃の違いをルガーと南部十四年式に例えるのってあんまりです。日本の工業技術を馬鹿にしてませんか。」
直美はテリーのルガーと南部の話に絡んだ。
テリーはまたも
「悪かった。君は日本人だもんな。Fw190と零戦だったら良かったかな。」
と意味不明な例えを引き合いに出した。
直美はテリーが黄金のP-38はドイツ製で暴発銃が日本製だと言いたいのを理解しているので、言葉を発する事なく一旦視線を向けると顔を逸らした。
田中直美はおかしくて仕方がない。表面は澄ました表情をしているが、本物のヒトラーの愛銃は自分の手元にある。知人の怪盗がオットー・ギュンシェの死後、親族に変装して盗み出した。それも20世紀ではなく、21世紀になってからの話だ。
「あぁらら、直美が近づくとご老人が仏さんになっちまった。不思議だぁ。」
そう言った怪盗に直美は言い返した。
「変な噂立てないで。ご高齢の紳士だもの、偶然よ。それより黄金のP-38はどこ。」
問いかけた直美に怪盗は言った。
「心配すんな。ちゃぁんとここにあるって。」
「あらぁ、わたしのために〈あ・り・が・と〉。」
直美は怪盗が見せてくれた黄金のP-38を手から取り上げ金属製のガンケースに仕舞った。
「直美、そりゃあないぜ。」
怪盗はそう言いながらもジャケットの上から愛用のP-38を確認するように右手を左胸に当てた。その仕草を見て直美は〈頂ね。〉とニッコリ笑う。怪盗はその笑顔に満足しつつもゆっくり顔を逸らした。
直美が回想に耽っているとテリーが声を掛けてきた。
「FBI は暴発銃が日本のどこで造られたかを調べてもらうため、東大学工学部の水下 輝教授に依頼をした。」
「東大学の水下輝教授が来るんですね。楽しみ。」
直美が言うとテリーは
「誰に変装して会いに行くんだい。往年の肉体派のフランス女優かイタリア女優か、それともあのアメリカ女優か。」
と絡む。
「もちろん田中直美ですよ。」
直美は答えた。
緑茶が朗読を終えた。矢部は
「すごいオマージュだ。」
と言い、田網と梯は軽く拍手した。
真は
「先生、必ず完結させてください。」
と言い、実も
「絶対に、ですよ。」
と念を押す。
「気が向いたらな。」
緑茶が笑うと、矢部は
「そりゃあないぜ。」
と言った。




