『怪盗vs学者〔0〕』
緑茶が喋り始めた。
「もう少し調べなくてはいけないが地球のエネルギーの流れとマントルの対流、そこから光と影や黒魔術と白魔術との関連性が導き出せるかどうかだ。」
「僕もその話好きですよ。宇宙規模で話がだんだん大きくなるのはよくありますけど、ブラックホールやダークマターみたいなやつですね。」
実が言うと田網が
「先生の話はいつも難しい。解るように簡単に話して欲しい。」
と言った。
「要するにマントルの対流やマグマが地表に出てきやすい場所と逆に地球内部に潜って行く場所で何らかのエネルギーの発生も多いと言う仮説だ。アイスランド近辺は地表に吹き出しているようだし、逆に日本近海は沈んでいるみたいだ。英国の魔法使いや日本の陰陽師の伝説はエネルギーの出入り口の混雑から来ているかな。」
緑茶が喋ると梯が
「凄く興味あります。でも田網さんにはまだ難解です。」
と言ったので緑茶は更に続ける。
「魔力や妖力の場合は絶対量より密度が重要になるのではないだろうか。警察官の君達に解り易く説明するなら人口と人口密度だ。都市部の繁華街のように極端に人口密度が高くなると犯罪やそれに近い事象が増加する。出入り口や細い通路は混雑すると事故も増える。」
「凄く解り易い。」
田網は納得した表情で言った。
「鬼・悪魔・物怪、そして幽霊も人間の視界内にしか存在しない。人口密度が高いと頻繁に現れ人間を襲う。低いと森や洞窟、闇に潜んで居ると噂になる。ここでは幽霊と霊を区別している。幽霊は被害者・加害者・関係者。霊は本体の生死を問わず霊魂で仮説から除外している。」
緑茶が喋ると真が
「僕と実は幽霊かよ。」
と笑いながら言い、緑茶は
「そう、黒い幽霊」
と答える。梯かクスッと笑い
「おっさん・こっさん、ザーさん・ジーさん、黒い幽霊。偽名だらけだわ。」
と言った。
「おいおい、犯罪者みたいに言うなよ。先生が余計なこと言うからだ。罰として『怪盗と学者』の冒頭を朗読してくれよ。」
真が笑いながら言うと、梯は
「私も聞きたい。」
と言い。矢部栄治は
「やるしかないですね。」
とニヤリとした。
緑茶は朗読を始める。
『怪盗vs学者〔0〕〜都市伝説の始まり』
男の野望は潰えた。
「まさかこの銃で自分を撃つことになるとは。」
と可笑しかった。
短銃はワルサー P-38。男が権力の頂点に登りつめていた時期にワルサー社のP-38を軍の正式短銃として採用した。この際に献上されたものだ。この銃は他の銃とは一味も二味も違っていた。ヘルマン・ゲーリングが所有しているワルサーPPKとルガーは24金製で象嵌が施されている。素晴らしい芸術品ではあるが実弾を発射するには強度不足だ。
だか男の手元にあるP-38は世界に冠たる自国の技術の集大成だった。14金を多用し、それでも強度不足の部位には純正の部品を使用している。ワルサー社の担当は男に献上する際にこう言った
「見た目は地味ですが、14金ですから金製品であることに間違いありません。そして何より最初に装填したマガジンの弾は発射できるだけの耐久性があります。芸術品でもあり優れた工業製品でもあります。」
男は右のこめかみにP-38の銃口を当てた。男の左側には妻がシアン化合物入りのカプセルを飲んで、膝を胸に抱え込んだ姿勢で息絶えていた。
男は引金を引いた。
銃声を聞いたオットー・ギュンシェが扉を開け部屋に入った。
男はソファーに腰掛けたまま前のめりになり右のこめかみから血を流していた。脈は無かった。P-38は男の足元に落ちていた。
ギュンシェはP-38を仕舞うと同じ位置に量産型のPPKを置いた。
後に黄金のP-38が話題に上がる度、ギュンシェは
「ソ連軍の将校がくすねたのだろう。残念だ。」
と言い続けた。




