頂戴女子フーちゃん〔1〕
蝙蝠雄と警察官との乱闘があった場所から少し離れたところに若い女性が一人横膝をついてしゃがみこんでいた。
西都原が
「巻き込まれて怪我でもしたのか。」
と行こうとすると、栞が手を引っ張って止めた。
「行かなくていいわ。あなたみたいなタイプはすぐ騙されるから。」
と少しムッとした表情で言う。
「何か訳がありそうだな。」
西都原の問い掛けに栞は
「この辺じゃ有名なのよ。〔頂戴女子フーちゃん〕って言うの。西都原和夫が近寄って声を掛けたらきっと〈さっきの騒ぎに巻き込まれちゃって。〉と涙目で訴えるわよ。その後は〈こんなに優しくされちゃって嬉しい。〉とか言うんじゃない。しんちゃんならコロッと逝っちゃうでしょ。そして明日から西田新之介は西田貢之介になるの、貢君に。」
そう言った栞は和夫の右手を握ると掌を自分の左胸に少し強く押し当てた。その行動とは裏腹に栞の目は和夫を睨みつけている。
「あーあ、あんな目立つところにわざわざ座り込んじゃって。〈誰か助けてよ。〉ってあざとくアピールしてるようなもんですね。」
矢部栄治はフーちゃんを見て言う。
真は緑茶の影から抜け出るとフーちゃんの影に入り耳元で、
「お嬢さん、本当に怪我をしてるのかな。同情されようとして演技をしているなら騒ぎに巻き込まれて本当に怪我をしますよ。」
と言った後、緑茶の影に戻った。
フーちゃんは
「きゃあ、ハムカイザーが私の影に。誰か助けて。」
大声て喚いた。
野次馬が
「ハムカイザーはまだ居たのか。」
「いや、この状況であんな女を相手にはしないだろ。」
「あの女ってあれか。」
「頂戴婆婆ぁフー族。」
「それか。じゃ、どうでもいいや。」
等と話している。
そんな会話を耳にした矢部栄治は
「あのフーちゃんとか言う女、テロワーズのレジで宮祭香とよくしゃべってる。」
と言い、真は
「先生、裏がありそうですね。警察の取れない裏が。」
と付け足した。緑茶がニヤリとして
「無力な正義は当てにはならぬ、無能な司法は役には立たぬ。」
と言うと、日之影真は
「その台詞、僕よりも絶対に先生の方が似合ってる。」
と笑い緑茶の影から出た。
朱美は実に
「あなたはずっとここにいるから、当然あの女の影に入ったのは真さんよね。」
と言う。
「そうだよ。危ないから立ち去るように忠告したんだが、逆効果だったみたいだな。目立ちたがりの構ってちゃんには困ったもんだ。ヒロイン・オレンジさん出番だよ。」
真はタイミング良く朱美の影の中から答えると再び緑茶の影に戻った。
「兄さんも忙しいな。」
実は笑い、朱美は
「仕方ないな。行くか。」
とフーちゃんの方へと歩き始めた。
朱美がフーちゃんに
「大丈夫。」
と声を掛ける。フーちゃんは自分がどれだけ注目を浴びているのか確認しようと周囲を見回した。周囲の視線はフーちゃんより朱美の方に集まっている。朱美の方が美人だからと言うのもあるが、部屋着の伸びきったジャージの下がズリ落ちて辛うじて腰骨に掛かっている格好に注目が集まっていた。それが気に入らないのか、フーちゃんはスッと立ち上がると何も言わずにその場を離れた。
影の中から実が
「お疲れちゃん。」
と言ったがさすがに視線の浴びている中では自分の影に〈ありがとう。〉とは言えない。朱美は場を離れて群衆から距離を置いた。




