蛹(さなぎ)
「矢部栄治君じゃないか。運転手じゃ時間をつぶすのが大変だね。退屈はしないかい。」
緑茶が気を使って声を掛けると矢部は
「スマホとタプレットの二刀流なので全然問題ないです。逆に時間を有効に使えます。さっき迄、先生の『魔女と疫病神』を読んでました。これって『美女と野獣』のダーク・バージョンと言いますか、ファンタジー版『ロミオとジュリエット』ですか。」
と尋ねた。
「そういう風に解釈して貰ってもいいだろう。」
緑茶が言うと矢部は続けた。
「魔女のモデルはやっぱり朱美さんで、厄病神は日之影実さんとか。あっ、もしかして先生が喋っていたのはハムカウジーの実さんじゃないですよね。てげ、やべぇじ。」
〈しまった。〉と言う顔をしている矢部に緑茶が言う。
「ハムカイザーこと真さんだ。心配しなくていい。」
緑茶が言い終えると影の中から声がした。
「おい先生、この人にもハムカイザーとかハムカウジーとか言ってるのかい。勘弁してくれよ。」
「勿論、そう呼んでいる。ハムカイザーとかハムカウジーとか言うと警察がうるさいからね。きっとあちこちに盗聴器を仕掛けてるはずだ。過敏に反応する。」
緑茶は真にそう答えた。
「矢部栄治君と言うのかい。初めまして、ハムカイザーの日之影真です。影の中から失礼するよ。」
真は緑茶の影の中から矢部に話し掛けた。
「こちらこそ初めまして。以後、宜しくお願いします。宮崎県人ならすぐ覚えてもらえる名前なんですけど、県外に出るとどうですかね。」
真と矢部の会話に緑茶が口を挟んできた。
「どうやら森市が蝙蝠雄に影化しているのが騒ぎの原因だな。」
「品のない邪悪な格好ですね。装飾部位が多すぎる。目立ちたいのかな。」
矢部が言うと真が
「目立ったら影の意味がないだろうに。ああなると影じゃなくて、影人だな。亜仰怪人は仰怪人じゃなくて影人の蛹だったのか。」
真の言葉に緑茶は
「面白い比喩だな。」
と言い、矢部も笑っていた。




