てっげ、やべぇじ(とってもヤバイよ)
サザンを閉めると緑茶、西田、栞、朱美の四人はニシタチを騒ぎの方向に向かって歩いた。この騒ぎでは大半の人々が暴力沙汰に巻き込めれるのを警戒して早々に帰宅するだろうし、残っているのは野次馬根性の居座っているものばかりになりそうだ。サザンにくる客も少ないだろう。西田と栞がペアになり朱美の影には実、緑茶の影に真が入った。
「騒ぎと言うよりイベントに人が集まるような人の流れ方ね。興味の無くて素通りする人も多いみたい。」
栞が西田に話しかけると西田は栞の会話の内容には相槌を打たずに、
「元知事って言うなよ。」
と言葉を返し、栞は
「そっち、解ってますよ。元知事。」
と西田の耳元で囁くように言った。そんな栞の態度も西田はそれほど不満ではないようだ。西田の表情を見て栞は
「西田新之助さん、絶対帽子を取らないでよ。正体判かっちゃうから。新ちゃんの頭部は上半分が光で下半分が影ね。ハーフだもん。」
「どういう意味だよ。」
「そのまんまよ。下半分はおしゃべりと毒舌って意味も加わるかな。」
「しーちゃん、最近はひどいこと言うようになったな。それに影はおしゃべりじゃなくて寡黙なんだ。」
西田と栞の会話は客とスナックのママではなく、仲のよい男女の馴れ合いになっていた。
「ジーさん、あなた森市に影化の方法を教えたの。」
朱美は実に尋ねた。
「いや、教えてないよ。あれは教えてもらうものではない。念じた時に体の変化を感じるんだ。化けるっていう表現がぴったりかな。落語で言う〈芸風が変わる〉って感覚の身体バージョン。それからジーさんはやめてくれ。」
「あら、ザーとジーの兄弟ってかっこいいじゃない。」
「ジーならいいよ。けど、ジーさんはやめてくれ。緑茶が変な呼び方するからみんな真似するんだな。」
「本来はビジネス用語でしよ。フランチャイザーとフランチャイジーの略。阿吽の呼吸じゃない。知らなくてもかっこいい略称だし、知っていればもっと楽しめる。さすが先生よね。」
「ジーさんのどこがかっこいいんだよ。」
朱美が影の中の実と話している姿は傍から見るとハンズフリーでの携帯通話だ。ずり落ちるジャージを引きずり上げながら喋る仕草は妙に夜のニシタチには合っている。
「あっ、てっげやべぇじ。」
緑茶が突然言った。
「森市が何かしでかしましたか。」
真が尋ねた。
「いや、西都原さんの秘書兼運転手の矢部栄治君がいる。」
「こんばんわ。」
矢部の方から挨拶があった。




