怠けん坊知事(かみさま)〔3〕
「西田さん、本気なの。」
栞が驚いた顔になるのは当然だ。西田は宮崎県知事を一期務めた後に国政に行ってしまった。これを心を良く思わない県民は多い。誰もが県知事を踏台にして国会議員を狙っていたのだと考えた。
ポカンとしたままの栞に緑茶が話し掛ける。
「光と影なんだな。誰も真実を知らないからそう言ってしまう。西田さんは宮崎県だけではなくて日本の影になろうとしたんだ。なんたって光と影のハーフだからね。」
緑茶が言い終わると栞は
「何となくだけど理解できるわ。確かに宮崎の影から日本の影って、宮崎が踏み台になってるのは同じだけど評価が全然変わるわね。日本を守ることは宮崎を守ることになるもの。」
と言い、緑茶は間髪を入れずに
「ママどこかで聞いた話だとは思わないかい。」
と付け足した。栞は関係ありそうな話を記憶の中から引きずり出そうとして真剣な顔をしている。西田が嬉しそうな顔をして栞に
「ママ、ヒントをあげるよ。〈し・ん・の・す・け〉。」
と言った。
栞が緑茶の顔を見ると緑茶は頷いた。栞は納得した表情で西田に向かって言う。
「もしかして日之影真之助さんって、西田さんの年齢からしてお父さんなの。」
「その通り。正直、二つ名は真の真之介で行きたかったけど敢えてハムカイザーと区別のため新の新之助にした。」
西田はシャキッとした顔で答えた。
「でもそれは選挙で言えないでしょ。やっぱり裏切り者の名を受けるわ。」
「いや、それでも全てを捨てて立候補する。」
西田と栞の遣り取りを聞いていた緑茶は珍しく笑いながら栞に言った。
「ママ、今日のカラオケはあの曲しかないな。西田さんは神武男だけどね。」
栞がカラオケのセッティングをしようとして会話が途切れ店内に静寂か広がると微かに外の音が聞こえる。その音に西田か反応した。
「いつもより外が騒がしい。」
西田がそう言ってドアを少し開けると外の声が聞き取れるようになった。
「また仰怪人が出たぞ。」
「今度は羽が生えてる。蝙蝠の羽根だ。」
「角みたいなのも生えてるぞ。」
「ハムカイザーかハムカウジーか。」
「でも、前回とは形が違う。」
「奴等は変形する影だぞ。」
得体の知れない影が実体化して、皆が好き勝手な事を言い騒いでいるようだ。
少し空いているドアがさらに大きく開き、お客が二人入ってきた。意外にもお客は日之影実と安川朱美だった。
西田は実に問いかけた。
「実、お前何かしでかしたのか。」
実は
「いえ、何もしてませんよ。」
と怪訝そうな顔で答えると言葉を続けた。
「アリバイを作ろうと思ってこの店に入ったんです。少なくともハムカウジーはここにいる。勿論、ハムカイザーもいます。」
緑茶の影から真の声がした。
「もう少ししてから登場するつもりだったが、この状況では仕方ないな。」
真は実態化して緑茶の隣に座った。更にその横に実と朱美が順に座る。
「外で暴れているのは誰なの。」
栞が誰となく尋ねると実が口を開いた。
「暴走した森市〆だよ。兄さんの影力が伝染して影化するようになっちゃった。」
すると真は
「お前が蝙蝠雄なんて煽てるからだろ。」
と言い返した。
「森市〆ってバットガイなの。」
栞が誰となく尋ねると緑茶が口を開いた。
「そう、自称[ご当地ヒーローを超えた正義の味方]。亜仰怪人を増やして自分の配下に置き正義軍でも作るんじゃないのか。」
緑茶が言い終えると栞は更に問いかける。
「森市は何をしたいのかしら。そして仰怪人と亜仰怪人はどう違うの。」
今度は真が話し始めた。
「おそらく自分で操った人間を影に操られているように演じさせ、バットガイになって倒す自作自演をやるんだろ。今がそうなんじゃないのか。それと仰怪人は人間ままで心の声を表に発する。亜仰怪人は心の中を行動で示したり、暴走すると影化する。亜仰怪人も人間だけどね。」
「それじゃ、亜仰怪人の方がやばくない。」
栞が言うと、西田が
「ママ、店を閉めてから二人ずつ三組に分かれて外の様子を見よう。」
と提案した。




