ヒーローは一日三分間
「そんなに『変身ヒーロー』の名前が知りたいのか。教えてやるよ。〈廣尾 卓〉だ。緑茶先生がまんま〈ヒーローオタク〉と読めるように付けた名前だ。』
朱美の影からハムカウジーの声がした。
「あんた、いつからそこにいるのよ。」
「いつからじゃなくて、昨日帰ろうと影に入ったらそのまま眠ってしまったんだ。」
「とっとと出て行け、このストーカー野郎。」
実と朱美は周りを気にせず好き勝手に喋り捲るので、正義と晴香は呆れ顔だ。
「じゃあ、また後で。正義さんと忠孝さんがいるんじゃ僕も居辛いよ。もうすぐ岩宿さんも来るんだろ。」
実は朱美の影から出て行った。
「まったく、もう。どうりで携帯が既読にならない訳だ。」
言葉とは裏腹に朱美はホッとした表情を見せた。
「朱美さん楽しそう。だから、普段着のままで来たんだね。」
「影者は影の中でも眠れるのか。今後の参考になるな。」
晴香は面白そうに喋り、一方の正義は真剣な表情で言う。
「それにしても姉さん、その格好なんとかならなかったのか。いくら夜とは言えユルユルのジャージじゃみんなに失礼だろ。ボトムのゴムなんか伸びきってほとんどずり落ちてるじゃないか。ずっと気になってたんだ。」
忠孝は呆れ顔で言う。
「本当はジャージのせいにして実君の前でワザと露出してるのよね、あーさんは。岩宿さん来るなら私も伸びたジャージにしようかな、見習って。」
晴香がそう言うと、
「いい加減にしなさい。」
と正義は少し厳しい口調で言った。
「昔の光に〈最近のヒーローは〉と言われそうだ。」
「そんな訳ないでしょ。四六時中張り詰めていたら心身共に持たないわよ。〈最近の…〉は昔からの常套句。忠孝君は頭硬すぎる。もっと柔軟な思考しなきゃ影に勝てないわよ。」
忠孝が言うと朱美は返した。
「そっ、忠孝さんもあーさんのチャランポランを分けてもらったらどうですか、影と仲良しなんだから。でも実さんに〈あーさんは裏技〔色蜘蛛の術〕使ってるよ。〉って言ったらどんな顔するかしら。」
晴香は朱美をからかってみた。朱美は頬をとプッと膨らませた後、晴香を睨んでいる。
「冗談でもそんなこと言わないでよ。そんなことしたら、晴香ちゃんは光記念館に遺影と資料標本が展示になるよ。〈十代で殉死した若きヒロイン〉って。損傷部位はどこがいいかしら。希望があったら聞くわ。」
朱美は晴香の頭を拳で軽くトントンと叩いた後、Tシャツを捲って掌で腹をパンパンと叩いた。
「うわっ、中身飛び出て露出狂だ。考えただけでも痛そう。って、それ仲間割れじゃん。オマケに世界中からマニアだかそっち系のファンが来館しそう。西はフィレンツェのラ・スぺーコラ、東は宮崎で…って光記念館とかあるの。」
晴香は上目遣いに朱美を見て不思議そうな顔をしている。
「県立博物館に増設してもらうの。目玉は〘紫の破壊〙、晴香ちゃん良かったね。」
朱美が言うと
「勝手に殺さないでください。」
と晴香が返す。晴香が視線を正義に移すと、正義は考え事をしている時の表情をしている。
〈その通りだ。ヒーローが常にヒーロー然としていれば心身ともに消耗しきってしまう。一日三分ぐらいが適切なのかもしれない。〉
正義は昔の怪獣番組を思い出して一人てニヤニヤした。




