♪最後に正義勝つ
森市〆は倒れた岩宿を庇うように日之影実の前に立ちはだかった。
「ハムカウジー、ここまでで十分だろう。勝負ついている。俺は世直しパーソナリティーの森市〆だ。」
自己顕示欲の強い森市はわざとらしく名乗った。
「君は僕を止められるのかな 。」
実が森市に言う。
「やってみなければわからないが、正義は最後に必ず勝つ。」
「森市君とか言ったな。危ないからやめたまえ。」
西郷は森市を制止した。その西郷に梯が助言する。
「室長、様子見ましょう。ハムカイザーとハムカウジーは何度も森市の影に入っているはずです。二人は知り合いと言ってもおかしくない間柄です。」
「なぜそう言い切れる。」
「森市は日之影実を見て〈ハムカイザーか、ハムカウジーか。〉と言いました。」
「確かにそうだ。影の正体を知っているんだな。君の判断に従おう。」
西郷は梯に言う。
「君の力を見せてもらおうか。」
実は森市に連続して突きと蹴りを放った。森市は突きを避け蹴りを受けた。今日の森市は体が軽くてよく動き自分の上達に酔っている。だが、当の本人は自分の影にハムカイザーが入って操影している事には気が付いていない。
「素人ではないようだな。基本はできている。だが今のは岩宿を倒した時の三割程度の力だ。」
実は真の操影に気付かぬ振りで言う。
「そうか、すると三倍強くなってもお前には勝てないが四倍強くなったら勝てるということか。」
森市が言うと実は言葉を返した。
「勘違いするな。四倍強くなっても僕には勝てない。但し岩宿には勝てる。簡単な算数だよ。」
「そうだな少し勘違いをしていた。でも今より四倍強くなれば俺はヒーローになれるわけか。」
森市の言葉が終わらないうちに実は影となり消え去った。
いつの間にか倒れた岩宿の横に天野と安川が来ている。
「屈強なお前だから大丈夫だとは思うが顎の調子はどうだ。」
天野が尋ねると岩宿は起き上がり答えた。
「大丈夫だ。あれが影の戦い方、日之影流か。」
「初めて見たよ。影で縛って動きを封じて攻撃をする。相手が変身していなければ我々も変身できない。厄介な相手だ。」
安川は天野を見て言った。西郷と梯も岩宿の方にやって来た。
「お怪我はないですか。」
梯が言うと、
「このくらい大丈夫だ。不意打ちを喰らったがな。」
と岩宿は悔しそうに言う。ヒーローズの三人を見ながら梯は話し始めた。
「私は ヒーローがやたらと変身して戦ってはいけない理由が分かった分かったような気がします。」
その梯に天野は言う。
「その通りだ。我々の変身は警察で言えば拳銃を発砲するようなもの。一線を越えた対応だ。」
「そんなことはどうでもいい。とにかく次は変身せずにハムカイザーとハムカウジーを倒す。」
岩宿が投げやりに言った。
「頑張って下さい。僕も出来る限りの協力はしますから。では失礼します。」
森市はそう言うと駐車場へと向かった。歩きながら心の中で〈正義が勝つんじゃない。勝った者が正義なんだよ。だから「最後に正義が勝つ。」と言われるんだ。〉と呟いた。
〈俺は歴史に名を残すぞ。乙巳の変から大化の改新、坂本龍馬襲撃と明治維新、そして何より本能寺の変と豊臣秀吉の天下統一だ。蘇我入鹿と坂本龍馬は暗殺者の名前すら不確定、明智光秀は三日天下、だか俺は違う。やがて影をも従えヒーローの中のヒーローになる。〉
森市〆の妄想とも言える野望は膨らんだ。
「絵楠君、これだけは覚えておくんだな。影が光を覆い尽くしたら只の闇。影の存在価値はなくなる。光在ってこその影だ。」
日之影実は梯の影に再び戻って来て、梯だけ聞こえるように喋った。
「忘れ物でもしたの、ハムカウジー。」
梯絵楠はみんなに聞こえるように自分の影を睨みつけた。
「大切な忘れ物がある。今度、緑茶先生と兄と僕で勉強会を開くんだ。〈試合に勝って、勝負に負ける〉についてだよ。〈刑事裁判で勝って、民事訴訟で負ける〉とかは君たちにも関係あるだろ。中出君は民事では負けるかもしれないよ。そこからスケールを拡大して民主主義と専制主義の話もする。警察は専制主義だからね。丸く治めようと〈和〉を持ち出した緑茶先生に誓約書を書かせて、逆に和を崩し角を立てる。まぁ、宮崎は未だ古墳時代だから関係ないかな。」
実はそう言って去って行った。
「日之影実か、刑事だったら良い刑事だったろうな。」
「室長、突然どうしちゃったんですか。」
梯が西郷に問い掛ける。
「そう思っただけだよ。」
と西郷は答えた。
「確かに光と影の均衡が崩れている。世の中は不確実な部分が多すぎる、つまりは陰の部分が増え過ぎだ。」
天野が言い終えると梯が言った。
「光があるから輪郭のはっきりとした影ができる。でも光の当たらない場所は陰。白黒つけても白と黒が混ざり合ったら灰色になる。三人はきっとそんな話をするのかしらね。」




