一撃KO
ヒーローズの岩宿と日之影兄弟の対決の時刻は正午だが魑魅魍魎対策室の室長西郷俊介と梯絵楠は一時間程前に到着して杜の中を調べていた。
「梯、日之影兄弟と仰怪人に関する情報とデータ収集は君に任せたいと考えている。特に操影術に関して我々は無知すぎる。やってくれるか。」
「望むところです。でも室長、そうすると緑茶先生や日之影兄弟との接触の機会も増えます。」
西郷の依頼を梯は快く承諾した。
「そうなるだろうな。その点は充分気をつけてくれ。特に日之影兄弟だ。」
「その点は特に問題ないはずです。影者は古墳時代から影となり大王を裏で支えてきました。危険なのは日之影兄弟より影られた後に暴走する人物です。短袴巡査もそうですが最近は中出君が危ないような気がします。」
「中出君が、か。」
西郷の言葉に梯は説明を返す。
「中出君は緑茶先生と日之影実を怒らせ過ぎです。先生は事を荒立てないように行動したのに周りが偏見であんな風にしてしまいました。元来、影者も〈和〉を整える存在で表立って暴れればヒーローズの出番です。この件はまだ影が動く段階かと。」
「その辺の判断は君に任せよう。」
具体案の浮かばない西郷は梯にそう言った。
喋っている二人に一人の男が近づいて来る。ラジオ・パーソナリティの森市〆だった。
「こんにちは。散歩ですか。僕はアウトドアが趣味なんで参拝に来るといつも参道を外れて杜に入ってしまうんです。」
そう言いながら森市は木の葉や雑草の裏側を見たり木を見上げたりしている。
森市の話を聞きながら西郷は時計に目をやった。時計の針はまもなく十二時を指す。岩宿も日之影兄弟もまだやって来ない。西郷が空を見上げると樹木の隙間からジェット機の機影が見えた。
「あ、誰かいる。」
森市が突然声を上げる。いつの間にかさほど遠くない場所に岩宿が立っていた。その瞬間、
「遅いぞ、ヒーロー。」
声と同時に影が岩宿の手足に絡みつき日之影実が現れた。即座に岩宿の顎に強烈な後ろ回し蹴りを放つ。岩宿は首をうなだれた。おそらく脳震盪を起こしている。手足に絡みついた影が消えると岩宿は地面に崩れ落ちた。
「岩宿さん、大丈夫ですか。」
西郷と梯が駆け寄る。西郷は〈まずい、一般人に見られてしまった。〉と森市に視線を向けると森市は日之影実の前に立ちはだかっている。
「誰か知らないけど喧嘩はよくないな。僕にも格闘技の経験がある。何だったら相手をしようか。話し合う気がないのならね。もしかしたら君はハムカイザーかハムカウジーのどちらかかい。」
森市は過去に数回ハムカイザーに影られている。ハムカウジーだと判ってはいたが少し惚けて言った
「鋭いな。僕はハムカウジーだよ。」
実は森市に言い返す。
実と対峙したままの森市に向かって西郷が叫んだ。
「君、危ないぞ。そいつ…」
咄嗟に反応して声を上げた西郷の横っ面を梯は掌底で打った。西郷は〈うがっ。〉と言い梯を睨みつけた。梯はすかさず、
「室長、申し訳ございません。守秘義務がありますから。」
と言う。
「そうだったな。」
西郷は口の中が痛くて濁音混じりに答え、同時に冷静な部下を持ったと嬉しかった。
ヒーローズの一人、岩宿は日之影実に関係者の前で瞬殺された。




