亜仰怪人
森市〆は自宅の書斎に籠り、自分の意思に従ってくれる人間にどのように指示を出すかを考えていた。森市はハムカイザーやハムカウジーのように影を操り人を自由に動かすことはできない。〈俺の力はまだまだだな。ラジコン飛行機なら離着陸すら完璧ではない。〉そう考えると悔しさが湧き上がってくる。
現在、森市が言葉である程度まで操れる人間は三人いる。 ディレクターの孔巾空歩、パーソナリティの仙道深雪、そしてリスナーで深雪の友人の宮祭香だ。ラジオ番組は空歩が企画演出を手掛け森市がそれに従い喋っているように聞こえる。だか実際に裏で空歩に企画を提出し採用させているのは森市だ。
森市は空歩に企画書を提出して採用させたい時にある種のおまじないを行う。机の上でデスクライトに向かって企画書を持ち上げ、企画書の影をの縁をなぞるのだ。そして企画書に登場する人物の名前を指で影の中になぞって書く。するとその人物は企画書の内容の通りに行動してくれる。だが現時点で意思どおりに動いてくれるのは宮祭香と仙道深雪だけだ。
人物を特定せずに提出した企画書にも若干の効果はある。最近宮崎で、仰怪人ほどではないが時折話題になる奇抜なコスプレイヤー達はある程度まで森市がイメージしたコスプレで登場する。軽挙妄動ケイソツダーと芸妓能動キャバレイジョーの登場には小気味良いものがあった。だがそれは森市自身が描いたものではなく緑茶五右衛門のパソコンを覗き小説の中に出てくる人物を森市が頭の中で描いたモノだ。完全に自分のオリジナルではないのが森市は気に入らなかった。
森市は香の携帯に文書を送信する時に自分の携帯をデスクライトに近付ける。少し前は影の中に〈緑茶をストーカーに仕立て上げる。被害届を出せ。〉と指で書いた。香は森市の指示通りに行動した。宮崎県警にもラジオでの企画[ラブ・ラブ・ポーション]には一切触れないでくれと根回しをした。緑茶が恋愛感情を持って香に近づいた事にしておきたかった。
さらに今回は警察関係者のリスナーから信じがたいメールが携帯に届いた。メールには〈どうやら明日、ヒーローの一人岩宿がハムカイザー、ハムカウジーと対決するらしいですよ。場所は天神ダムです。〉とある。森市は潮流に乗ったように感じた。影の力をもっと吸収したい。そしてゆくゆくは宮崎だけではなく日本や世界を征服したいと野望が膨らんだ。
日之影真は森市の影に侵入している。真は〈この男は暴走し始めたな。自滅するなよ。〉
と独り言を口にした。
「 あなた、ご飯よ。」
妻の声がした。亜仰怪人と化していた森市〆は一般人の森市〆へと戻った。
真は
「そうそう君には家族の団欒が一番似合っているよ。」
と小声でいい、笑いながら〆の影から去った。




