闇に溶ける男
宮崎市一の繁華街ニシタチでは人が逃げ惑っている。
最初は酒癖の悪い酔っ払いが暴れている程度と思わていたが暴れ始めると異常に強い。数回目までは〈中国伝統の酔拳〉かと笑っていられたがその強さは尋常ではない。警察官では手の付けようがなく怪人と呼ばれるようになった。
怪人には共通点がある。暴れながら 口々に叫ぶのだった。
「世の中が悪いんだ。富が一部に集中している。」
「非正規労働者には金が回ってこない。」
「俺は努力しているのに、努力が認められない。」
現代社会への不満が異様なエネルギーと化して人に取り憑いた暴れ方だ。
宮崎県警宮崎中央署の生活安全部に魑魅魍魎対策室が設置された。県警は公式発表をしていないが怪人は巷では[仰怪人]と呼ばれるようになり、県警の記録にも一連の事件の逮捕者にも[仰怪人]なる言葉が使われるようになった。
今回も対策員が来ている。
「友達を増やしてくるかな。」
と真が言った。
「兄さん、頑張って。」
実が声を掛ける。
真は出入口に向かって歩いて行くとレジのスタッフに
「外に友達がいるみたいだけど、心配なんで見てきます。弟が席にいますから。」
と告げた。
スタッフは
「解かりました。」
と答え真の背中を見ていたが一瞬自分の目を疑った。ドアを開けて外に出た真の姿は闇の中に溶けていくように見えた。〈私、疲れてるのかしら〉スタッフは心の中で呟いた。
〈兄さんせっかちだな〉実が渋い顔をしている。