キャバクラ殿の十三人
天野、岩宿、安川の三人はコスプレのカップルと少し距離を置いて宮崎神宮内を歩いている。仰怪人の事件からまだ日が浅いせいか参拝客の中にはカップルを気に掛けている者も多い。所々に中央署の刑事もいるがお互いに他人のふりをしていた。
「初めまして。君たちの影に入ったのは初めてだ。」
天野の影から日之影真の声が聞こえた。
「右に同じく。」
実は安川の影に侵入していた。
「俺様を避けたのは俺が怖いからか。ハムカイザー、ハムカウジー。」
怪訝そうな顔をして岩宿は影に向かって話しかける。
「君は本当に頭が悪いな3対2だ。一つ余って当然だろう。それに岩宿君、君が一番気が短いようだ。我々は揉め事を起こしたくないんだよ。神武天皇が宮崎を離れたくなるのも無理はないな。」
岩宿は大声を上げて真と実を罵倒してやりたかったが、下手に騒ぐと自分の方が仰怪人と思われかねない。沸き上がる怒りをグッと抑え込んだ。
「相変わらず減らず口を叩きやがる。何だったらここで実体化してしてみろ。俺も変身して正々堂々と戦ってやるぞ1対2でな。」
岩宿は好戦的な表情を浮かべ真と実に言う。
「おい、挑発には乗るな。」
安川が岩宿に言った。
「解ってるよ。たかが影ごときに変身する必要はない。」
岩宿は影を睨みつけながら言った。
「ところでいったい何の用なんだ。」
天野が真に尋ねる。
「忠告に来たんだよ。いつまでも大昔のやり方では世の中の平和は保てない。ITの普及で心の声が外に出てくるようになった以上は力で押さえつけることができない。言わなくても解っているだろう。聡明な天野君だ。」
「だから我々も変身しての戦いは極力避けるようにしている。」
天野はそう答えるしかなかった。実も天野に言う。
「線引きを考えるんだな。変身してヒーローになったら正論しか言えないだろう。心の声に灰色のオブラートをかぶせて濁したままにはできないぞ。制限速度50km/hの道路を皆が80km/hで走っているとしてだ、その流れに追い付こうと85km/hで距離を詰めた車が捕まったら35km/hオーバーになる。捕まった車だけがスピード違反じゃないよな。その時ヒーローは何て言うんだい。〈制限速度は守らなければいけない。〉としか言いようがないだろう。現実にパトカーでさえ制限速度+10km/hで走っていることだってあるじゃないか。警察ごときは流れに乗ることも大切だと言える訳だ。しかし、ヒーローだったら叩かれるぞ。ドラレコの動画を拡散されたら最悪だ。正義のヒーローとなぁなぁてげてげの無能警察の速度超過では世間の風当たりがまるで違う。」
実はいつものように少しくどいくらいの内容の話をした。
魑魅魍魎対策室の西郷と川村はコスプレカップルの通報を受けて宮崎神宮に来ていた。二人はヒーローズの三人を見かけたが他人のふりをしてカップルの方を監視していた。
「ヒーローズは先ほどから立ち止まって何か話していますが少し時間が長くないですか。」
山村が西郷に言う。
「何か不審なことに気づいたのかもしれないな。行って話しかけてみるか。」
二人は ヒーローズに話し掛ける前にヒーローズの会話が聞こえるぐらいの距離に近づいた。
「もう単純に善と悪に分けられる時代ではないだろう。ヒーローは建前でしかないのだよ。」
「そうそう、ヒーローは正義の広告塔に成り下がってしまった。」
真と実が喋った。天野は真と実に言う。
「その通りだ。君たち影は自由に喋れる、自由に動ける。しかし我々はヒーローだ。我々が変身しなければならないような事態というのは頻繁に起こって欲しくはない。百年に一度、いや千年に一度の災害に対処するべく我々は日々精進している。ハムカウジー君、考えてみたまえ。百年に一度の洪水や千年に一度の大津波に備え堤防や防波堤を築いたら、その時は無駄な経費だと言われるかもしれない。しかし実際に川の氾濫を食い止め、津波を防いだらそれは役割を果たしたことになる。人々がそれを当たり前だと考えても、それはそれで良いではないか。それがヒーローだ。」
「ハムカウジー、君の屁理屈と違って天野の言葉は理路整然としている。そして、ヒーローと影では対処する事象のスケールが違う。」
岩宿が喋ると実が言った。
「君が目線を落として影を見ながら喋ると本当に他人を見下したような〔上から目線〕になるな。近々、君の影に侵入して本音に触れてみたくなったよ。」
突然、岩宿の影が細く長く紐のように伸びて岩宿自身に絡みついた。岩宿は影をほどこうとしたがほどけない。柔らかいのに予想以上に強靭だ。時間にすれば一秒にも満たない程だが岩宿は何も出来なかった。
「実、止めておけ。」
真が実に言う。
西郷と山村は影が紐と化し岩宿に巻き付いたのを見逃さなかった。小走りでヒーローズの所へ向かう。
「岩宿さん、大丈夫です。」
「大丈夫だ。ここで変身するわけにはいかないからな。」
山村が問いかけると岩宿は答えた。
〈ははははは〉と岩宿の影から笑い声がした。
「ヒーローズと金魚のフンが揃ったか。本当にドタバタするのが好きな連中だな。ヒーローズと魑魅魍魎対策室で総勢何人かは知らないが、緑茶先生は君たちを〈キャバクラ殿の十三人〉と言ってるよ。仰怪人や森市〆のような亜仰怪人と宮祭香、短袴亜莉須、仙道深雪みたいな無神経な言動で他人を掻き回す取巻きの総称な。説明しなくてもわかるだろう。十三人かどうかは知らんがな。」
「緑茶もお前たちと共謀してるのか。」
西郷の問いに実が答える。
「先生はただの友達だ。親友を超えたただの腐れ縁だよ。」
「ハムカイザー、ハムカウジー俺と勝負しろ。人目に付くとまずい。場所は天神ダム、日時は明日の正午、雨天決行だ。太陽の光が弱くても俺は相手をする。」
突然、岩宿が真と実に挑戦状を叩きつけた。
「かまわんよ。」
「俺もだ。」
真と実は承諾すると影から去って言った。五人はしばらく沈黙したままだった。




