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彼女もストーカー

 日南本署での仰怪人の取り調べを傍聴した田網と梯は宮崎中央署へと向かっている。

宮祭香(くさいかおり)が被害届を出したみたい。これで恋愛ゲームのトラブルから犯罪になってしまった。宮祭の意志なのか中出(なかいで)巡査長が被害届を出すように言ったのか、それとも上層部が隠蔽と捏造で絡んでいるのかしら。」

「余計なことを喋るな。」

 田網は梯にいつも通りの忠告をした。それでも梯は喋り続ける。

「中出君は森市〆の番組『スカモ』の[ラブ・ラブ・ポーション] 企画については全く触れてないの。完全無視よ。これでは宮崎県警がFMひむかと司法取引をしたと思われても仕方がないわ。緑茶先生のラジオへの投稿だって宮祭香より元カノの話の方が多いのよ。」

「もうやめろ。」

 田網は梯にさらに強い口調で言った。

「あなたの正義感ってそんなもの。魑魅魍魎対策室の配属を志願したのは偽りの正義なの。闇から目をそらして臭いものには蓋をするなら警察やめた方がいいわよ。」

 梯は多網に言い返した。多網は黙ったままだ。


「まぁまぁ、君たちそんなに感情的にならないように。」

 田網の影から声がした。真は一瞬ハムカイザーへと実体化して再び田網の影の中へと戻った。

「お前一人か。」

 田網が真に問いかけると、梯はルームミラーを見ながらにっこりと笑い言った。

(みのる)さん、いえハムカウジーいるんでしょ。」

「もちろんいますよ。相変わらず勘が鋭いね、絵楠(えなん)君。」

 実は助手席の梯から見たルームミラーに映る位置で一瞬実体化して梯の影に戻った。

「とにかく喧嘩はやめてくれよ。こうやって和ませるのが僕たち影の本来の役目なんだ。」

「好き勝手を言うな。」

 田網が真に言い返す。すると田網の言葉に割り込むように実が言う。

「絵楠君、ストーカー対策課の中出とか言う若造に教えてあげなよ。なぜ香さんがあんなに緑茶先生に対して怯えているのかをね。もう知っているのかもしれないが森市が緑茶先生のパソコンや携帯を覗いて拡散した文章を香さんも見ているんだ。しかも森市が使う[抹茶粉右衛門]は鍵アカウント(かぎあか)だから一部の関係者しか閲覧できない。つまり香さんも犯罪者なんだがそれを警察は隠蔽している。最初は森市を応援する〘善意の第三者〙だったのかもしれないが、今の香さんが知らないはずはない。彼女はITストーカーだよ。」

「キサマ、いい加減なことを言うな。どこまで事実を知ってると言うんだ。」

 田網は怒鳴るような口調で言う。

「君はバカか。僕は県警幹部の影にも侵入できるんだよ。それに緑茶先生が友人や家族宛に送信した文章を見ればすぐに分かるはずだ。必ず添付された文章があったはず。君が知らないだけのことかもしれないがな。」

 実の言葉に答えたのは梯だった。

「その通りですね。添付文は三種類ありました。一つ目は〔これは個人宛の文章です。警察さん、何故拡散されているのか事実を調べてくれ。〕。二つ目は〔週刊文潮さん、マスコミの覗き拡散を記事にしてくれ。〕。三つ目は〔FMひむかさん、森市〆君、覗きは犯罪だよ。〕。皆、見て見ぬふりでした。」

「流石だねえ、絵楠君。それじゃあどうしてストーカー対策課が勘違いをしたか解ってるよね。緑茶先生が恋愛感情を持って香さんにつきまとったことになってしまったか。」

 実は梯に言った。梯は淡々と答え、田網はそれを聞いた。

「簡単なことです。先生は小説のプロット、プロットと言うよりラフの段階で〈スカモ〉に投稿したからです。その文章が一人称で書かれていた。只それだけです。」

「一人称で書かれたことが全て事実だったら世の中は犯罪だらけだ。森市は緑茶先生を犯罪者に仕立て挙げるために偽アカウント(ニセアカ)を使い〘抹茶粉右衛門〙と名乗ってSNSをやっていた。この件を警察は緑茶先生の妄想だと言う。司法取引があったと考えるほうが自然だろ。」

「一人称で書いたりするから誤解を生むんだ。なぜ小説として投稿しなかったんだ。」

 田網は実に問いかけた。

「そんな風に投稿したら面白くもなんともないだろう。恋愛小説をラジオ番組に投稿するのに〈男と女が出会ったのは…〉より〈今日素敵な女の子に会いました…〉の方が番組のネタになる。本当に君は無能警官だね。」

 実は田網に冷たく言い切った。

「田網巡査長、落ち着いて運転してください。」

 梯はいつになく優しい口調で多網に言った。実は話を続ける。

「中出君は緑茶先生が香さんに熱烈な恋愛感情を持っていることを前提に話をするから話がずれたんだ。ボクは法律には詳しくないがストーカー法は恋愛感情を前提にしてるんだろう。常識で考えてみろ見れば分かるじゃないか。レジで手を握るぐらいまではまだ悪ふざけで済んだんだ。でも身体を擦り寄せてながら〈お客様、私のレジにどうぞ。〉ってのはまるでキャバ嬢だ。ナンバー1がすでに他のお客と席に着いている隙に上客奪取を狙うキャバ嬢が〈お客様、私でよろしければどうぞ。〉と言ってるのと同じだ。それを小売業のレジ係がやる訳だ。ゲームの延長線だと思って当然だろ。」

 喋り続ける実に田網は言った。

「そんなに気になるなら宮祭香の影に入って調べればいい。」

「それはできないな。緑茶先生と約束した。香さんの影には入らないとね。」

「キサマの言葉が信用できるか。」

「警察には言われたくないな。」

 実と田網は敵意をむき出しにして喋っている。真が割り込んで来た。

「実、その辺にしとけ。それではお二方、失礼しますね 」


 暫く間を置いて、田網がポツリと言った。

「あいつら、一体何をしたいんだ。」

 梯が田網に言う。

「まだ喋ってはだめです。真さんは影から出たかもしれないけど、実さんが残っているかもしれない。」

 実の声がした。

「仰る通り、まだここにいます。」

 実は梯に言った。

「やはり緑茶先生が黄金のワルサーP-38を描写した後、千葉県警京葉署で起きた拳銃暴発事件の話をしなくてはいけないな。嶺太君にとってはどうでもいいことだろが。」

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