日本武尊と倭建
宮崎神宮に現れた仰怪人の行動は傷害事件に発展してしまった。男は最初境内歩きながら大声で喋りまくっていたが、その内容は聞く者にとっては不愉快になる位に宮崎を卑下していた。
「なぜ神武天皇は宮崎を離れて大和に行ったんだ。その理由を考えてみようじゃないか。宮崎が本当に良い所なら大和に行く必要はないだろう。隣の芝生は青いと言う奴等がいるかもしれない。古代にも陽の昇る処へ行けば良いことがある〈中国の徐福伝説〉みたいな言い伝えがあったのかもしれない。だけどおかしいだろう。神武天皇の子孫ヤマトタケルは熊襲征伐と言って九州南部に攻め来んで来た。自分の先祖が住んでいた処ならもっと友好的に話が進められたはずだ。その理由を考えようじゃないか。」
ほとんどの人々は素通りするが何人かは男を凝視している。警察官もやって来た。それでも男は話を続ける。
「そのうちにそんな政治家が現れたって不思議ではないだろう。それに人間たるもの権力を掌握すると突然戦争を起こしたりするものだ。君たちは知らないのか。明治維新以降、薩長土肥は地元の人間を押し上げたが、宮崎は地元の人間の足を引っ張ったのだ。一番顕著な例は日露戦争の後の小村寿太郎氏だ。君たちは知っているのか。」
男が喋っている内容は史実として認められたものではなく宮崎に残る地方伝説のいくつかだ。一人の男が近づき〈いい加減にしろ、〉と言った。喋っていた男は〈言論の自由だ。〉と言う。二人は暫くボソボソと話していたが、近づいてきた男が突然殴りかかった。殴られた男が今度は数発殴り返した。そしてそれを止めに入った数名と乱闘になった。すぐに警官が割って入り、喋っていた男は取り押さえられた。
男は
「ヒーロー、助けてくれ。俺が何をした。俺は喋っているだけなのにいきなり殴ってきた 奴がいるんだぞ。どちらが正義でどちらが悪なんだ。ヒーロー、お前は本当にヒーローなのか。偽りのヒーローだろう。真のヒーローはハムカイザー様だけだ。」
〈ハムカイザー〉という言葉を出した時点で男は仰怪人と認定された。男は苦しそうに喋っていた。男は肩を脱臼し肋骨を骨折していた。
宮崎神宮の仰怪人と一般人の乱闘は動画サイトでも多数公開され、ニュース・サイトでも公開されている。しかしどのニュース・サイトでも最後の言葉は消されていた。
宮崎神宮での仰怪人の件は田網と梯にも西郷室長から無線連絡が来た。
〈日南署には事情聴取も必ず撮影するように指示を出した。とにかく体に触れるような行為は一切禁止だ。〉
〈了解です。〉
田網は返答した。
「仰怪人の最後の言葉をマスコミが伏せているのは報道規制かしら司法取引かしら。」
梯が言うと
「お前の発言は危険すぎる。少し言葉を慎んだ方がいい。」
と田網が言った。梯は
「異性を心配し過ぎるとストーカーにされるわよ。緑茶先生みたいに。」
と笑いながら多網に言い返す。
「だから、それをそれを慎めと言っているんだ。」
「大丈夫よ。その時はどこかの国の女性首相を真似るから。」
「なんだよ、それ。」
「 あら、知らないの。とある国の女性首相が戦争を始めた時、当時は冷戦真っ只中だったんだけど風刺漫画に〈なんでこんな緊迫した中で戦争を始めるのか。〉の問いに〈政治業に失敗したら主婦業に転職するわ。主婦業の方が大変よ。〉ってあったの。」
「お前は独身だろ。」
「だからその時は普通の女の子に戻って結婚すればいいかなって。」
「お前、彼氏いるのか。」
田網はそれまで会話していた内容よりも〈結婚〉なる単語に反応した。
ネット上では投稿された動画と報道された動画の違いについてや、その時の警察官の対応ついて色々と論議されていた。
〈先に殴ってきたのは一般人で、仰怪人は殴られたんだろう 。〉
〈なぜ、その時警官は止めに入らないんだ。〉
〈だよな、絶対おかしいよ。〉
〈てか、警官の対応遅くね。一般人に仰怪人を殴らせたかったみたいに見える。〉
〈反応遅すぎ。こんなんじゃ要人警護はできないな。〉
「田網さん。ヤマトタケルは『古事記』では倭国の建国者の倭建、『日本書紀』では日本の身分が高い武人の日本武尊。そして熊襲の首長は熊襲建。日之影兄弟の話と共通点があるように見えない。」
梯が言うと、
「その方がお前らしいよ。」
田網は言った。




