武官と文官
緊急走行ではないので田網と梯は赤色灯のみの走行で鵜戸神宮へと向かった。
田網は梯に
「お前が緑茶先生の熱心な愛読者だとは知らなかった。」
と言った。
「緑茶先生の妖怪譚のシリーズ、何かと面白いんですよ。人が心で物を見たときに妖怪が見えるんですから。先生の言う〈心〉は見た事、聞いた事、感じた事を脳がどう判断するかです。事件を起こした人と話すときなんかの参考にもなります。あくまで参考ですけど。」
「そうか。それでやっぱり緑茶先生は初動ミスを根に持っているのか。」
「それは当然だと思います。一回じゃなくて二回ですからね。しかも隠蔽してます。」
梯ははパトカーの中なので一般人には聞かれたらまずいようなことも平然と口にしている。
「隠蔽ではなく司法取引だ。」
田網が訂正を加える。
「なりすまし事件の司法取引はまだ理解できます。でもストーカー疑惑がどうしてああなるんですか。女性は全然被害届を出す気はなかったんですよ。だから緑茶先生はあちこちで無能警察と書き捲ってます。本来、小説の中に登場するのは能力のない〘無能警察〙ではなくて、パロディバンドの〘無脳警察〙でボーカルがミスミスポリスだったんです。私もどんなキャラで登場するのか楽しみだったんですけど、隠蔽なんかして先生を怒らせるから全然違うキャラになりました。」
「梯巡査長は本当に詳しいな。」
「上手く逃げましたね。逮捕しますよ。」
田網と梯は半分どうでもいいような会話を続けていたが、少し間を置いて梯が再び切り出した。
「仰怪人の行動には 二つのパターンがあると思いませんか。行動派と論理派です。これは私の推測ですけどハムカイザーが影ると行動派、ハムカウジーが影ると理論派になるみたいです。」
「言われてみるとそうだな。今回もそのパターンだ。どうしてそう思った。」
「簡単なことです。緑茶先生とハムカウジーは仲がいいからです。短袴巡査が二人に利用されなければいいんですけど。」
「梯、室長に報告書を提出したらどうだ。影も仰怪人も我々はまだ把握できていない。」
田網は梯に言った。
鵜戸神宮の仰怪人は喋るだけ喋ったらおとなしくなった。おとなしくしていると普通の人だ。これには単純な理由がある。ただ単にハムカウジーが仰怪人から離れ田網の影に入っただけである。ハムカウジーにすれば田網の影でも梯の影でもどちらでもよかった。二人の会話を盗み聞きするのが目的だった。




