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天使になりたかった魔女

「今日は仰怪人が多いな。三件か。」

 田網嶺太(たあみ れいた)が険しい顔で所轄からの報告を待っている。

 夏が近づいて天気の良い土日だと行楽地は人出も多い。仰怪人は宮崎神宮、鵜戸神宮、青島神社に出現した。一日三件出現したのは初めてである。

短袴(たんこ)巡査の様子はどうだ。」

 西郷が言った。

「短袴巡査は今日はテロワーズで買い物をしています。」

 梯絵楠かけはし えなんが答える。

「どんな格好だ。」

「服装はパンツルックですから、影は取り憑いていないようです。そして短袴巡査に憑く影はハムカイザーではなく弟のハムカウジーかと。」


 すると多網が何かの報告を受けたようで喋り始めた。

「室長、ハムカウジーが鵜戸神宮の仰怪人を操ってます。ハムカイザーは宮崎神宮と青島神社の二刀流です。鵜戸神宮の仰怪人は運玉を大量によこせと一万円札を積み上げて買い占め、運玉が無くなると万札を丸め霊石亀石(れいせきかめいし)に向かって放り投げたので貨幣損傷取締法の現行犯で拘束しました。」

「ハムカウジーはともかくハムカイザーが二刀流三刀流と増やし始めたら厄介だな。」

 今度は補佐の山村が言う。すると梯が口を挟んだ。

「ハムカウジーが操る影の行動には緑茶先生の小説の描写と共通点があります。」

「どういうことだ。」

 西郷が問い掛けると梯が答える。

「申し上げにくいのですが短袴巡査がストーカー容疑で緑茶先生を拘束しようとした日のストーカー行為ではないことが判明した後です。緑茶先生はテロワーズの五味田鎮夫(ごみた しずお)総務部長の顔を見て笑いながら商品券を一枚一枚丸めては〈運玉、糞玉(ふんだま)、紙玉、神屑〉と言いながらゴミ箱にポンポン投げていたらしいです。更に緑茶先生は〈紙玉の紙は紙切れの紙、神屑の神は神様の神。昔々、とある皇子(みこ)日向(ひむか)の国に嫌気が差して〔日本の王に、俺はなる。〕と言い美々津から船出しましたとさ。大和に着いた皇子は苦労の末に神武天皇となり〘末代まで伝えよ。やられたらやり返す、日向(くまそ)征伐だ。〙と言いました。〉と投げながら喋り、最後は五味田部長に〈俺は出入り禁止なんだろう。じゃあ、テロワーズの商品券は紙屑以下だな。〉言ったみたいです。これを緑茶先生は小説『天使になりたかった魔女』でネタとして使っています。」

 田網が

「詳しいな。」

と言うと梯は

「私も『天使になりたかった魔女』は読んでいるんです。」

と答えた。

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