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寄り道

作者: 雨世界
掲載日:2020/12/29

 寄り道


 登場人物

 

 私 十四歳 少女


 僕 十四歳 少年


 プロローグ


 今までも。これからも。


 本編


 ……ごめんなさい。ちょっとだけ、泣いてもいい?


 ……私、もう踊れない。

 ……私、もう大好きな歌を歌えないよ。(大好きな音楽の途中で)


 私は自由を愛している。

 私は音楽を愛している。

 私は歌を愛している。

 ……私は、……。

 私は……。


 僕


 大好きな音楽の途中で、君は急に歌うことをやめてしまった。それは君の姿をずっと一緒に、パートナーとして撮影してきた僕にとって、とても意外なことだった。


 君は動くことをやめて、両手で顔を隠すようにして、静かにその場所にしゃがみこんで、そのまま子供のように、その場所で泣き始めてしまった。


 いつものように撮影用のカメラのレンズ越しに君を見ていた僕は、君の元に駆け寄って、君に「どうしたの? なにかあったの?」と声をかけた。

 でも、君はただ泣いているだけで、僕になんの言葉もいってはくれなかった。


 君はただ泣き続けていた。

 そんな君のことを、僕はなにもすることができずに、ただそばにいることしかできなかった。

 やがて、君は自分の足でその場所に立ち上がった。

 だから僕も一緒に君のそばに立ち上がった。

 

 君は泣きながら、真っ赤な目をして僕のことを見つめた。僕はじっと、そんな君の赤い目を見つめ返した。

 君は僕の体にそっと、その体を寄せてきた。僕は、なるべく君の体の自由を奪わないくらいにほんの少しだけ距離をとって、そんな君のことを受け止めた。


「……ごめんなさい」

 とても小さな声で君がいった。

 その言葉を聞いて、僕は今初めて、『君にずっととても辛い思いをさせていた』のだと気がついた。

「僕のほうこそ、ごめん」

 僕はそう言って、君の肩をそっと自分の体に抱き寄せた。


 音楽はまだ鳴っていた。

 撮影中の無人のカメラも、レンズ越しに僕と君のことをずっと、映し続けていた。


 音楽が終わると、僕は少しだけ、君と一緒に夢を追いかけることをやめて、二人で一緒に、お休みを取ることにした。

 そのことを君に言うと、君は無言のままとても小さくうなずいた。


 私


 ……君と一緒に二人で夢を叶えるまで、絶対に立ち止まらないって決めていたのに、その日私は立ち止まってしまった。未来に向かって、足を動かすことをやめて、ただその場所の上になにもせずに立ちすくんでしまったのだった。


 そんな力のない、頼りない自分のことを、私はとても許せそうになかった。


 私は君と一緒に旅に出ることにした。

 心と、体を癒すための、旅に二人で一緒に出かけることにしたのだ。


 君が「旅行に行かない? 二人だけでさ」といってくれたとき、本当に嬉しかった。

 電車の中はとても空いていて、二人で並んで座ることができた。


 暖かな春の日。


 がたんごとん、と電車が揺れた。


 そのとき、私の頭の中に新しいインスピレーションが生まれた。


 私はまた、全力で歌を歌いたいと思った。


「走ろう」

「うん」


 空想の中で、そう言って、少年と少女が手を取り合って、森の中にある小さな丘の上を目指して、大地の上を走り続けていた。


 その日、世界は本当に暖かだった。


 二人。寄り添うように……。


 寄り道 終わり

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