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あごのせドラゴン  作者: 炎華
3/3

出会い

「お姉ちゃん?」

初めて見るドラゴンの子供は、私を見上げておそるおそるそう呼んだ。

「そなたは?」

「炎華。お姉ちゃんの弟です。」

そう言うと、小さなドラゴンはぺこりと頭を下げた。

「弟?」


私が向こうを出るときは、弟はいなかった。

私が一番下で、上に兄と姉がいた。

私がこちらに来てから生まれてきた子か。


「母上が、お姉ちゃんの所へ行きなさいって。」

「お母様が?」

翼がまだ小さい。

その小さな翼で、あのドラゴンの世界からこの地上まで飛んで来たのか。

「うん。」


お母様はどういうお考えなのだろう?

こんな小さな子をドラゴンの世界から遠ざけるとは。

権力争いでも起きたのだろうか。

お兄様とこの子の間で?

それとも気の強いお姉様の方か?

ドラゴンの世界は雄も雌も関係ない。

強者がその地位に就く。

この子はまだ小さくて、権力争いに参加できるはずがない。

それどころか、命すら奪われることになりかねない。

それでお母様は、この子を送り出したのか。


ということは、お父様の身に何かあったのか?ご病気、とか?


「馬鹿だな、私は。」

思わず口に出た。

ドラゴンの世界から遠ざかった私には、関係のないことだった。

お父様のことは心配だったが。

急に言葉を発して、少し笑った私を、

不安そうに炎華が見上げていた。

その視線に気がついて、私は少し気まずくなった。

「ああ、すまない。考え事をしていて。」

慌てて弁解するように言って、弟の小さな翼に手を伸ばすと、

小さなドラゴンは思わず身をすくめた。

「どうした?翼をみせてごらん。痛いだろう?そんなに傷ついて。」

弟は、躊躇うように私を見上げている。

「うん?どうした?」

じっと私を見つめたまま、

「お姉ちゃんは、本当にドラゴンなの?」

私は伸ばした手を途中で止めた。

「どうして?『気』でわからない?」

「うん。僕と同じ『気』だけど。」

弟はまだ身を固くしている。

「それなら」

「だって!お姉ちゃんの姿、ドラゴンじゃない!人の姿だから!」

そうか。

それで警戒していたのか。

私はドラゴンの姿に戻った。

本当は、あまりこの姿にはなりたくないのだが。

「どうだ?」

「お姉ちゃん・・」

「ん?」

「お姉ちゃん、綺麗だ。」

大きな目をきらきらさせて弟が言った。

「ずっと、そのままの方が綺麗なのに。

僕と同じ赤い色で、目が赤茶色で。」

「ふふ。ありがとう。」

ドラゴンの姿を綺麗だと言われるのは初めてだった。

だいたいは、怯えるか、恐れるか、だったから。


弟は、力を緩め、くるりと背中を向ける。

翼は、思った通り、ところどころ傷がつき、付け根には黒く焦げた後があった。

「ああ、やはりこんなに傷ついて。」

付け根の焦げに手を当てる。

このくらいの傷ならば、私でも治すことができる。

全ての傷を治療すると、

「あれ?痛くなくなった!」

小さな翼をぱたぱたさせて、痛むかどうか確かめると、

炎華はくるりとこちらに向き直った。

「お姉ちゃん!傷が治せるの?すごいや!」

「ああ。村の者が怪我をしたり病気になったりするからな。」

「ひと?」

炎華の顔が暗くなる。

「どうした?人は苦手か?」

炎華は首を横にふる。

「じゃあ、どうして?」

小さな頭をうつむけて、しばらく黙っていたが、

もごもごと小さな声で話し始めた。

「僕、ひとって本当はどういうものか知らないけど。

ここに来るときに、母上が、

『ひとには気を付けなさい』って言ったの。

僕の爪と角は、ひとの世界ではとても価値があるものだから、

自分で自分を守れない間は、ひとには心を許してはいけないって。」

炎華は真剣だった。

お母様は、断腸の思いでこの子を送り出したのだろう。


私は炎華を観察した。

右の角は普通の体の色と同じ赤い色の角だが、左の角は金色をしている。

爪も左の角と同じ金色だった。

私は炎華の両手を、自分の手のひらにのせた。

炎華は抵抗せず、両腕が上に挙がる共に、

項垂れた頭をゆっくりあげた。

爪は、黄金だった。

しかし、金は、そんなに堅くはない。

堅い岩などをひっかけば、途端に自分が傷ついてしまう。

でも、これは。

まさか、金剛石?

詳しく調べてみなければ、わからないが。

いや、でも、こんな、黄金のような金剛石があるのだろうか。


「お姉ちゃん?」

不安そうに炎華に呼ばれ、我に返った。

とても怖い顔をしていたらしい。

「ああ、すまない。」

炎華の手をそっと離す。

「ここの者は、大丈夫だ。

そんな邪な者はいない。

ちゃんと、分をわきまえているから。」

無言で私を見上げていた炎華は、頷いて言った。

「うん。お姉ちゃんがそう言うなら。」



後になって、私のその言葉は全くの嘘と成り果てることとなった。



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