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あごのせドラゴン  作者: 炎華
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炎樹-えんじゅ-

私は、長年護ってきた村の人々を皆殺しにしました。

罪なき者も、何の迷いもなく全て焼き尽くしました。

子供も生まれたばかりの赤子もです。

私にとって村人達は、愛おしく、大切な存在でした。

だから、護ってきた。

これからもずっとそれは続いたはずでした。

あのことがなければ。


あの者達は、私の弟を、

ちっぽけな欲望のために殺そうとしたのです。

新しく村にやってきた家族が、村人をそそのかして、

弟の身にある黄金の爪を剥ぎ取ろうとしたのです。

私の、大切な、大切な、あの子を。


あの日、村の周囲の見回りを終えて、

住処に戻って来たとき、いつも迎えてくれる弟の姿がありませんでした。

その頃、やっと人間の姿になることができたばかりだったので、

嬉しくて、その辺を歩き回っているのだろうと思い、

しばらく待ってみましたが、一向に戻る気配がありません。

胸騒ぎがして、捜しに出ました。


森の上を飛んでいたとき、弟の怯えた心を強く感じました。

ここで、弟があんな怯えを感じるなどとは夢にも思っていませんでした。

ここは、私が護っている地で、村人達も私を愛してくれている。

そう信じていました。

弟を脅かす物は、何も無い、と思い込んでいました。


村人に囲まれた弟をみつけたとき、

弟は抵抗せず、丸くなって身を守ってました。

傷だらけになっても、丸くなって。

弟はまだ子供です。

それでも、反撃すれば人間など他愛も無いことでしょう。

あの子は、私が村と村人を護っていることを知っていました。

そして、村人達を大切に思っていることも。


「何を、何をしている!」

私は大声を出していました。

村人達は、私を見ると一様に怯えた表情を見せましたが、

そそのかした者が、

「やれ!」

と言うと、村人達は一瞬躊躇った後、

手に持っていた武器を構え直し、私に向かってきました。

どんな武器も、私には通用しません。

攻撃を受け流しているうちに、怒りを感じるようになってました。

最初は、私の愛している村人達が、

弟を傷つけ、更に私を倒そうとしているという驚きと悲しみでいっぱいでしたが、

それが怒り、いいえ、憎悪に変わっていきました。


自分達の欲望のために弟を殺そうとするクズども。

こんなクズを長い長い間護ってきた。

こんなクズを愛しく大切に思ってきた。

なんて馬鹿だったんだろう。

・・・殺してやる。

皆、殺してやる!


目の前が真っ赤に染まり、私は炎をクズどもにに向かって放ちました。

さすがクズですね、一瞬で炭になりました。

それだけで許すつもりはありませんでした。

クズ、一辺たりとも許すことはできません。

どんなものも逃しはしませんでした。

村が炎に包まれ、動く物が無くなっても、私の怒りは治まりませんでした。

もっと、殺してやる!

あいつらがいた町も、あいつらが取引きしようとしていた奴らも、

全部全部殺してやる!

でも、怒りに任せて、まさか、大切な弟まで殺そうとしたなんて・・



「だから、あのまま命を絶ってきたのだな。」

透明な声が言った。

「・・はい。」

「私の放った黄金の槍くらいでは、そなたの命を絶つことはできないはず。」

炎樹は頷いた。

「いくつもの魂をそなたドラゴン族は持っている。

そなたの様に、長い間人々を護ってきたドラゴンは、

それは沢山の魂を持っていただろう。」

「・・全部、炎華に、弟に託しました。」

「うむ。」

透明な声は頷いた。

炎樹は声に向かって言った。

「どうぞ、罰を。罰をお与えください。

本来なら、私はあそこで魂もろとも消滅するはずだったのでしょう?

なぜ、人の天上界にお招びになったのですか。」

「うむ。それは。」

透明な声は、しばし沈黙した後、ゆっくり言葉を繋げる。

「そなたは、自分の立場がどんなものか、わかっておるか?」

炎樹は少しの間考えたが、首を横に振った。

「そなたは、ドラゴン族の長の娘御であるぞ。」

炎樹は、ああ、と気がついた。

「そうでしたね。あまりにも長く人の世にいたので、忘れてました。」

透明な声は、少しあきれたような調子で言った。

「そなたがドラゴンの長の娘御ということは、

そなたの弟御は長の御子息ということであろう?

その大切な息子を、人間ごときが傷つけ、

それを護るのに、人間の村を一つ焼いたくらいで

我が娘に手をかけるとは何事かと、ご立腹なのだ。」

「父が、ですか。」

炎樹は、空を見上げた。



「もう、お前なぞ知らん!

好きにするがよい!

その代わり、二度とドラゴンの世界に戻ってくることは許さんぞ!」

ドラゴンの長はそう言い放つと、炎樹に背を向けた。

「ありがとうございます。」

炎樹は長の背にそう言うと、地上を目指した。

人間が住む世界を。

「馬鹿な娘だ。」

嬉々として地上に向かうその背中を、父は寂しそうに見送りながら呟いた。


「お父様・・」

炎樹は、苦虫を噛み潰したような父の顔を、懐かしく思い出した。

「父は、人が嫌いなのです。」

ぽつりと炎樹は言った。

「そなたが、長の反対を振り切って、

人の世に下ったからであろう?」

その言葉に、炎樹は少し困ったような表情を浮かべた。



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