六二話
「………行ってきます」
泣きはらした娘が学校へと行くのを二人は見送ってレイトは拳を握って机へと叩きつける。
ライムも夫の気持ちがわかり深く頷く。
「今更、何で!?」
あれらから十年近く経っているのに今更襲い掛かってくることに不満を抱く。
出所して直ぐに似たようなことは襲い掛かってくると予想していたが今来たことに絶望する。
「…………本当に誰がやったのよ」
警察からは既に子供もいたが死んでいると聞いた。
それは逆恨みの復讐、もしくは相手に辛い過去を思い出させないための警察の嘘だ。
だが二人からすれば警察を疑う考えていないせいで誰が、こんなことをしたのか分からなくなる。
「可能性としては彼らの友人たちか………。今更、行動を起こすなんてな」
他人を金の為に殺したのだ。
未だに恨まれているとは心の片隅に思っていたが、記憶に薄れ始めるころにやってきたことに、それだけ恨まれているのだと理解していた。
「取り敢えずは、これらをやった犯人を見つけよう。そしてリィスだけは許してくれるように頭を下げないと」
レイトの言葉にライムも頷く。
自分たちが罪深いのは知っているが子供は違う。
何も知らないのだから許してほしいと二人は祈る。
「近所の人たちはどうする?」
「…………どんな誹謗中傷を受けても無抵抗でいよう。それだけのことをやったんだ」
「そうだよね………」
今更、過去の自分たちが嫌になる。
もし過去に戻れるなら殺してやりたい。
過去の自分達のせいでリィスがどうなっているのか想像もしたくもないが目の前で見せられてしまう。
「………悪いが、もしリィスが目の前で怪我をさせられそうになったら俺は反撃するぞ」
「何を言っているの………?」
レイトの言葉に信じられない目を向けるライム。
そんなことをしたら更に敵視させられてしまうのに。
「逆に娘に手を出したら人殺しが報復に来るぞ、と思わせた方が安全だと俺は思う」
「……………」
レイトの言葉に考えこんでしまう。
ただの暴力を振り回すと男と人殺しでは明らかに後者の方が怖い。
それに一線を越えているために、ある意味では最高のバックだ。
「そうね。私たちはともかくリィスのことに関しては反撃するようにしましょう」
自分達の過去は責められて当然だし、誹謗中傷を受けても当然だと思っている。
それでも娘だけは関係ないと二人は頷き合った。
「…………リィス!お前って人殺しの子供なのかよ!?」
一人の男の子が最初に学校の玄関に着いたリィスへと話しかける。
この男の子は普段からリィスにちょっかいを出していて嫌われている。
だからリィスも無視をして教室へと向かう。
「何これ!」
リィスは教室のドアに貼ってある紙を見て怒りを露わにする。
両親のことを人殺しと書いていて新聞のようにしていることに手の込んだ悪戯だと不快になっていた。
「なんだ。やっぱり嘘だったんだ」
リィスに近づいて最初に話しかけた男子がそう言ってくるが、やはり無視。
嘘だと思っていながら質問してくる態度に腹が立つ。
「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」
教室に入るとみんながリィスを警戒するような目で見てくる。
まさか、本当だ信じているんじゃないかと裏切られた気持ちになる。
「もしかして、皆信じているの?」
「………何を言っているの?その紙に書いてあることは本当じゃない。お父さんもパソコンで調べて見せてくれたし」
リィスへと一人が反論すると俺も、私も、僕もと声が上がってくる。
全員が近所の子供たちだ。
「ごめんね……。もうお父さんたちからリィスちゃん達には近づくなって言われたの」
そう言ってリィスから近づいても離れていく近所の友人たち。
友人たちの行動にショックを受ける。
それを見ていた近所に住んでいる以外の友人たちも本当だったと距離を取り始める。
昨日までは一緒に遊んでいた友達が自分から一斉に距離をとったことにリィスはショックを受けていた。
「…………」
そのまま席に座ろうとすると、それまでの距離でもクラスメイト達は距離を取り座った後も、それぞれの近くの席の者たちも出来る限り離れようとしていた。
その光景に泣きそうになりながらグラウンドを見る。
そこには昨日までは無かった穴だらけで、人殺しの娘など明らかにリィスを指示した文が書かれている。
それを確認してリィスは涙を流した。
「………っ」
涙を流したリィスを見てルカは父親と母親の言うことに聞くのが本当に良いのか悩んでしまう。
少なくとも今まで一緒に遊んできて、リィスは人を殺すような者には見えなかった。
確かにリィスの両親は人殺しかもしれないが、彼女は違うだろうと思う。
むしろ最近のアニメで人殺しの子供と罵られて育った子供が本当に人を殺すようになった姿とリィスがダブってしまう。
「…………来て!!」
そこまでルカは考えるとリィスの手を取って教室から出ていく。
途中で教師の声が聞こえてきた気もするが無視だ。
廊下を走り、玄関を駆け、そして学校の外へと走り出していった。




