三八話
「リィス、そんなに怖い顔をしてどうしたのよ?子供たちが怖がっているわ」
食卓に着くとそんなことを言われる。
そして一緒にいる皆を見ると確かに私を怖がっている。
「ごめんね。ちょっと嫌なものを見ちゃって」
そう言いながら私は近くにいる女の子を膝の上にのせる。
この子は私の上に座って本を読むのが好きな子だ。
だから最初は怖がっていたけど、直ぐに落ち着いて安心した姿を見せてくれる。
それを見て他の子どもたちも安心して息を吐く姿が見える。
「だからといって八つ当たりは止めなさい。子供たちが怯えているから」
「ごめんね」
孤児院のスタッフに怒られて私は子供たちに謝る。
怖い思いもしただろうから目を見合わせて謝ると笑顔で許してくれた。
「ううん、大丈夫。それよりも嫌なものって何があったの?大丈夫?」
心配してくれる膝の上に乗せている女の子の言葉に私はまた無表情になってしまう。
自分でも自覚してしまうぐらいに顔から表情が抜け落ちてしまっている。
それだけ私は憎んでいるんだと嬉しくなる。
憎しみの感情が強ければ強いほど私は父と母のことが好きだと証明できるのだから。
「ひっ……」
「あぁ、ごめんね。できれば思い出してほしくないわ」
表情が抜け落ちてしまったせいで、また子供たちから怯えられてしまう。
続けて私が言った言葉に何度も首を振っている。
そんなに怖かったか、と苦笑してしまう。
「ほら早く皆もご飯を食べないと。時間が無くなるわよ」
見ると全然、ご飯に手を付けていない。
手を叩いて食事を促していった。
「皆、食べ終わったわね。それじゃあ手を合わせて」
「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」
朝食を食べ終わって皆が手を合わせる。
それが終わると私は孤児院のスタッフに一人、呼び出される。
「何があったの?」
当然、話は私が表情が抜け落ちるぐらいに嫌なものを見たと言う話だ。
孤児院のスタッフとして私やその周りに被害が無いか確認したいのかもしれない。
それに対して私は何も答えないことを選ぶ。
「ごめんなさい。本当に言いたくもないので気にしないでください」
下手に喋ったら止められる気がして私は話せなくなる。
きっと色々な理由で私を止めるだろう。
一つは今まで育ててきた私を犯罪者にしないために。
一つはこの孤児院から犯罪者が出て一緒に住んでいる子供たちが風評被害に襲われないためだろう。
それでも私はそうなっても構わないと復讐を決める。
自分を慕ってくれる子供たちより私は父と母を優先することに決める。
「そう。なら良いけど何かあったら話してね?」
孤児院のスタッフはひとまず納得したように見せて探ろうと決意した。
リィスは昔から孤児院のスタッフの仕事を手伝ってくれた優しい子だ。
そんな子が表情を抜け落ちるなんて心配をしてしまう。
「取り敢えず、みんなと相談しようかしら?」
孤児院に住んでいる子供たちが学校に行ったりした後に他のスタッフの皆と相談しようと決めた。
そのために朝食を食べ終わった皆を学校へと急かす。
どちらにしても、そろそろ学校に向かわないといけない時間だ。
いつもより急かして学校へと子供を向かわせた。
「どうしたの?いつもより急かしているように見えたけど」
その姿を見て他のスタッフの一人が話しかけてくる。
丁度良いと彼女にリィスのことを相談する。
「嫌なものを見たからって表情を抜け落ちた顔になって子供たちを怯えさえた?あの子が?朝は普通だったのに?」
「朝、会ったの?」
彼女に確認すると頷かれる。
朝、ランニングすると言っていた時はいつも通りだったと。
それならランニングの最中に嫌なものを見たのかもしれない。
「もしかして事件に合ったとか……?」
有り得そうと近づく。
最近、苛めの復讐とかで事件が多い。
もしかしたら、それを見てしまったのではないかと想像してしまう。
「嫌なものを見たと言っていたけど関わったわけじゃないわよね?」
「帰ってきたときには怪我も無かったから大丈夫だと思うけど」
それでも、そんなものを見たら嫌な気分にもなるかと納得する。
それにしても安心する。
苛めの復讐にどちらの味方をしないで。
関わってしまったら地獄だ。
復讐されている方を助けたら苛めの被害者に憎まれし、苛めの被害者と一緒に攻撃したら今度は復讐されている方に関係ないのにと憎まれてしまう。
どちらにしても憎まれるのは変わらない。
何で苛めなんかするのか分からない。
耐えている者が爆発すると、どうなるか分かったものではないのに。
現に今も復讐されてひどい目に合っている者が多い。
「最近、本当に荒れているし皆で孤児院を引っ越した方が良いと思うわね」
「金はあるし、多分問題ないと思うしね。今度、会議で案を出しましょう」
リィスも陸上では有望な選手として名を知られている。
苛めの復讐も多いが、理不尽な嫉妬で襲撃される話もよく聞く。
よく考えなくても子供の教育にここはマズいんじゃないかと考えて冷や汗を流す。
「やっぱり早急に相談する必要があるわ」
「そうね。わたし孤児院の院長に直訴してくるわ」
「お願い。私は皆に話してくる」
二人はそれぞれ引っ越しのための話をするために行動していく。
今すぐにでは無理でも年内には引っ越した方が子供たちのためだという使命感から動いていた。




