二六七話
「引っ越すことなんて出来ないのに……。それを知らないで希望にして可哀想……」
ギネカは事務員からもらった水晶玉を見て呟く。
フェアニ達家族は事務員の呪いで家から離れなくなっている。
離れる準備が出来たとしても何だかんだと理由を付けて引っ越すことは無い。
「それにしても子供かぁ……」
ギネカは赤ん坊がアムルに甘えているのを見て呟く。
自分も将来的には子供が欲しいと思う。
だけど確実に子供を育てられる環境が出来てからだ。
相手は当然、アムルだと考えている。
「ふふふっ。きっと私とアムルの子供だから可愛いだろうなぁ」
まだ産んでもいない子供のことを想像してギネカは笑う。
その為にアムルをどうやってフェアニたちから引き離すか考える。
「監禁する準備は出来ているけど、やっぱりお金がなぁ……。最初はバイトをしてアムルを生かしていけるだけのお金を稼いで、後は子供を育てられるだけのお金を稼げるようになってから子供を産めば良いかな」
そうすれば早く監禁しても問題は無い。
ただ子供を産んでしまわない様に我慢する必要があるが。
「そうとなればどうやって手に入れようかしら?」
できれば嫌われることなくアムルを手に入れたい。
ベストなのは完全に自覚させて自分に依存させたいと考えている。
「依存させるには絶望した状態から親身になってあげれば良いわよね……。それが更に深ければ深いほど良いと思うし」
そう言って水晶に映っているフェアニの家族たちを見る。
そこには仲の良い家族が映っている。
「彼女たちを殺せばアムルも深く絶望するかしら?」
仲の良い家族。
そしてギネカからアムルを奪った家族でもある。
生まれたばかりの赤ちゃんもいて、本当なら未来はまだまだ分からないのに奪われてしまう命。
フェアニが死んでも赤ちゃんがいるなら立ち上がれり、赤ちゃんが死んでもフェアニが生きているなら立ち上がれるかもしれない。
なら二人とも殺す必要がある。
「うん……。それが良いわね」
ギネカは二人を殺すことに積極的になる。
忌々しい女と、その娘が死ぬのなら好都合だった。
それで依存させやすくなるのなら猶更だ。
「それじゃあ、どうやって殺そうかしら?」
出来れば死体は確実にアムルに見せたい。
そして死んだのを確認させれば心が更に傷ついて絶望するだろうと予想する。
そこに上手く慰めれば自分のモノになると夢想していた。
他人を殺すことに関しては何とも思っていない。
だって相手は自分から奪った女とその子供。
死んで欲しいとさえ思っていた。
「それに私が直接殺すのも不味いわね」
殺すのなら金を払って誰かに任せた方が安全だ。
そして更にバレないように代わりに殺してくれた相手も殺す必要がある。
遺体は海にでも投げ捨てれば良いのかもしれない。
「うん。フェアニたちを殺すのは他の皆に任せよう。適当な奴らに金を払えば動いてくれるだろうし……」
考え無しのバカか本当にお金に困っている者なら簡単に引き受けてもらえるだろうと想像する。
その時は変装することも忘れない。
胸を潰し、男の格好をすれば誘導したモノがいたとバレても怪しまれることは無いと考える。
「そうと決まれば探しに行く必要はあるわね……」
女の身で路地裏やホームレスがいる人たちのところに行くのは不安がある。
もしかしたら襲われるかもしれない。
それでも目的のために丁度良い人材を探すために行く必要がある。
念の為に変装もするつもりだ。
「まずは男性用の服をいくつか買いに行かないと……」
ギネカは色々と想像をするが男性用の服は持っていない。
まずは男性用の服を買いに行く必要があった。
「復讐相談事務所の人たちにも相談するべきね……」
もしかしたら気付いていないだけで男の格好をするのにおかしい部分もあるかもしれない。
それを教えて欲しかった。
『あーん』
『あー?』
水晶には赤ん坊にあーんをしている二人が見える。
アムルもそれを愛おしそうに見ていてギネカは嫉妬をしていた。
それらの視線は自分だけに見せて欲しかった。
「絶対に殺してアムルは私だけの者にしてやる」
忌々しそうにそれを見て口に出すギネカ。
嫉妬でどうにかなりそうだった。
「すいません。いま時間はありますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
早速、ギネカは復讐相談事務所へと向かった。
目的は当然変装のことについて相談することだ。
「何か、ありましたか?」
「その変装のことで相談がありまして……。男の変装をしたいんですが何か教えてもらえないかな、と」
相談された内容に事務員は頷く。
そして一度席を立って奥へと行くと直ぐに戻ってきた。
「変装するときはこのマスクを被って、多少でも服が大きいものを来てください。それで性別を誤魔化せるはずです。女性は男性よりも細いですし、少しでも誤魔化した方が良いと思いますので」
思ったよりも参考になるアドバイスにギネカは手帳を取り出してメモをしていく。
男と女の体格の違いは知っていたが、そこまで変えることは考えていなかった。
服装を変えれば良いだけだと思っていたから復讐相談事務所に来て良かったとギネカは思っていた。




