二五六話
「少し良い?」
「どうしましたか?」
ギネカは事務所に入ると事務員に文句を言う。
内容は当然、薬のことに関してだ。
「嫌われる薬って言ったわよね!?確かに嫌われてたけど目の前にいた相手には嫌われず、むしろ呪われているんじゃないかと心配していたわよ!!」
「へぇ……」
ギネカの言葉に事務員は面白そうに笑った。
「ひっ!!?」
「事務員さん?」
突然、笑ったことにギネカは怯えイラと呼ばれていた幼い女の子は不思議そうにしている。
幼い女の子がいることに気合を入れギネカは平然としているように装う。
「面白いですね。あれは感情が変化しても自覚は普通はしないはずなのに。もし気づいても気にしない筈なんですよね……」
感心したように言う目の前の事務員にギネカは文句を叫びそうになる。
だが次の言葉で黙る。
「それだけ情の深い相手がいるんですね。素晴らしい……。貴女も不満があるでしょうが納得してください。代わりに何かで補填しますから」
復讐相談なんて趣味が悪いことをしている目の前の相手も同じようにフェアニの母親の行動に素晴らしいという感情を抱いたことに共感してしまった。
それに思った通りの結果が出なかったことに変わりの何かで補填すると聞いたからだ。
「他の補填って何よ?もし決めていなかったら薬の分の代金と監禁するための部屋ぐらいはタダにして欲しいのだけど」
「良いですよ?あぁ、それと監禁部屋に関してはまだ時間が掛かるので待っていてくださいね?」
あっさりと自分の提案が受け入れられたことにギネカは驚いてしまう。
かなりの損をするはずなのに受け入れた理由が分からない。
「先程、面白い者に教えてもらったからですよ。そのお礼です」
相手は結婚して子供もいる。
それなのに手を出すつもりなのかと事務員を睨む。
そもそも相手は自分の復讐相手の母親だ。
尊敬の念を抱いてもそこは変わらない。
「もしかして人妻趣味?」
「違いますよ。ただ薬の効果を無効化したことに興味があるだけです。これ以上強力にするべきか、それともこのままで例外の一つにするべきか、少し悩む」
父親の反応とアムルの家族の反応から例外にするべきだろうとギネカは思う。
実際、アムルの両親は当たり前のようにアムルを嫌いはじめた。
「ふぅん。そういえば、あの薬の効果って何時まで続くのよ?薬だしいつかは効果が消えるんじゃないの?」
「一ヶ月は続きますよ?それ以上に時間を掛けるなら、また飲ませないと行けませんね。もしかしたら必要は無いかもしれませんが」
事務員の言葉にどういうことかとギネカは視線を向けて説明を求める。
薬の効果が切れたら、元通りになるんじゃないかと考えている。
「一ヶ月もずっと嫌っていたら、それが普通の状態になると思いますよ。それに虐めや嫌がらせをするでしょうし。その行為によって優越感も感じるでしょうから、それを味わい続けるために止めないでしょうね?」
「はぁ……?」
ギネカは虐めたことも虐められたことも無いから事務員の言葉は理解できない。
虐めているからといって相手より優越感を感じるなんて意味がわからなかった。
そして嫌っているからといって虐めるのはおかしい。
嫌っているのなら虐めをしてないで関わらなければ良いと思っている。
「ねぇ。それって私が何もしなくても周囲から嫌われ傷つけられていくってこと?」
「そうなると思いますよ?」
どちらにしても継続的に嫌わせさせようと考えていたが、そこまで必死に考えることは無いと聞いて安堵する。
他にも考えること、やることがあるから余裕が出来るのは喜ぶところだ。
これなら虐め嫌がらせが当然になるのなら簡単に二人を苦しませ追い詰めることが出来る。
子供の出産をするなら最悪な環境だが、母親のせいだと諦めて欲しいと考える。
「そうだ!!」
「キャッ!!」
ギネカは何か思いついたのか急に立ち上がる。
イラは突然立ち上がったことに驚いて運んでいた飲み物をこぼしてしまい濡れてしまう。
自分が急に立ち上がったせいで幼い女の子がずぶ濡れになったことに顔を青くする。
慌てて立ち上がった勢いのままにイラの元へと駆け寄ろうとしていた。
「安心して下さい。ずぶ濡れになりましたが、それ以外の被害は有りません。イラももう奥に戻って服を着替えてきなさい。一人でも大丈夫だろ?」
「はい……」
「こぼしたことに怒っていないから、そんなに落ち込まない。それよりもそのままだと風邪を引くから、さっさと着替えない」
心配そうに声を掛けてくる事務員に怒られるわけじゃないと安心してイラは落としたオボンや割れたコップをそのままに事務所の奥へと消えていく。
その姿に事務員は苦笑し魔法で破片や濡れた床を片付け始める。
「さてと……。何を思いついたのでしょうか?」
そして片付け終わったらギネカに視線を向け、何を思いついたのか質問する。
復讐相談事務所という名前をしていることもあり協力できることは協力したいと考えていた。




