二五四話
「本当に謎ね……」
ギネカは家へと帰る途中、貰った道具を手に取りながらため息を吐く。
事務員の言う通り、家への帰り方を覚えており記憶が無いのに分かるのは変な感覚だ。
「それに、これらの道具もどうやって手に入れたのか。どうやって製造しているのか謎すぎるわ」
普通に非合法な道具もあれば、現在の技術では出来るはずのない道具まで渡してくれる。
姿を消すマントもそうだし、使われた相手に向けられる感情を狙ったものに変える薬も有り得ないものだ。
「あれだけの技術があれば世の中はもっと発展するだろうに……」
おそらくは、これらの薬や道具は事務員が作っているのだろうとギネカは想像する。
こんなものが出来ていたら、どんな形でも既に噂になっていてもおかしくない。
それなのに聞いたことは一度も無かった。
おそらくは製造者が隠して口止めさせてきたことが理由だろう。
それをここまで完璧に出来るとしたら復讐相談事務所しかない。
こんなことに技術を使うのは勿体ないと、頼っておきながらギネカは考える。
「それにしても敵意を向けてしまう薬か……。いつ使おう?」
子供を妊娠したと分かってからか、それとも生まれた後に使うか悩んでしまう。
生まれる前に使えば何てことをしたんだと親が堕胎させるかもしれない。
そうでなくても感情的に追い出して出産出来ない状況に追いやられる可能性もある。
そして生まれてしまってから使ったら子供に罪は無いとどちらかの両祖父母が引き取る可能性がある。
それは子育ての経験もあるし安心できるかもしれないが、両親に会えず孤独を覚えるかもしれない。
それに両親がいないということで虐められる可能性もある。
もしくは学生妊娠をしたせいで退学になり、家から追い出され中卒で働ける場所がなく貧しい生活をする可能性があるし、生活が辛いからと捨てられることも考えられる。
どちらにしても生まれてくる子供に罪は無いから困ってしまう。
生まれてきて辛い目に遭うぐらいなら最初から堕胎させた方が良いか、それとも辛い目に遭うと分かっていても産ませるのか考えなくてはならない。
「ここはいっそフェアニ先輩に任せるか……?」
出産させる前にギネカは薬を飲ませることに決める。
本当に子供を産みたいのなら辛い目に遭っても生むだろうとギネカは考えたからだ。
アムルが気になっているのなら引き取って上げるから安心して欲しいとギネカは思う。
「さて、どうなるかな?」
ギネカは早速、姿を消してフェアニの家へと向かう。
そして敵意を持たれてしまう薬を使おうと考えた。
アムルはその後にするつもりだ。
「まさかね………?」
フェアニは自分の身体の異変に心当たりがあり妊娠検査薬を使うことを決める。
そして早速、使って見ると結果は陽性だった。
「あなた、それは何?」
そして何故か母親にそれを見られてしまう。
「陽性……?誰に手を出されたの!?もしかしてアムルって子じゃないでしょうね!?貴女に手を出すなんて変態なのよ!今すぐに別れなさい!!」
母親は娘が手を出されたことで変態がいたと悲鳴を上げる。
それだけ娘には女としての魅力が無いと思っていた。
だから手を出すとしたら余程の変態だと母親は想像する。
「何を言っているんだ?私にもちゃんと女としての魅力があるってことだろ?妊娠したというのは、その証拠だろうが」
フェアニからすれば別れるなんて受け入れられなかった。
少し成長したころから孫は望めない、幼児体型、子供は諦めろと言われ続けてきた。
だから、それを覆せたことでアムルを逃がすことは考えられなかった。
「私はあんたが何を言ってもアムルと別れるつもりは無いし逃がさない。必要なら家を出て行ってやる」
フェアニはギラギラとした眼を母親に向けて宣言する。
自分に対して散々言ってきたのだ。
前言を撤回する気は一切ない。
「あ………」
母親は絶望していた。
自分の娘が頑なに否定している理由が自分たちのせいだと理解してしまったからだ。
そして、もしかして子供が産ませることが出来るのなら本当は誰でも良かったのだと考える。
長い間ずっとフェアニに言い続けてきた言葉が娘をここまで子供を産むことを、結婚する相手を望んでいるのだと理解して心が壊れそうになる。
娘を妊娠させることが出来るのは変態だけだと母親は思っているが、求めさせるようにしたのは言い続けてきた家族だった。
もしかしたら何度も言われ続けてきたことで限界まで心が傷ついているんじゃないかと今更ながらに考えてしまう。
「どんな男の子がもう一度、確認する必要があるわね……」
娘に手を出した以上、変態であるのは確実。
だけど以前に会ったときは娘の良いところをしっかり見ていた記憶がある。
もう一度、確かめて信頼にたる男だったら母親は二人をサポートしようと考えていた。
取り敢えず信頼できるのであれば男の子の方は娘を妊娠させたことを黙っており、娘を妊娠させたことを聞かれても嘘を吐くように忠告しようと考えていた。




