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二四六話

「へっ?お前、別れたの?」


「はい。今のままだと恋人相手に相応しくないので……」


「へぇ~」


 フェア二はアムルが別れたと聞いて顔がにやけそうになっていた。

 だが、それを隠して今は恋人がいないか確認した。


「つまりお前は今はフリーなんだな?」


 その言葉に頷くアウル。

 改めて言われると自分で決めたこととはいえダメージを負ってしまう。


「ふぅん。今のままだとか……。もしかして自信が付いたら、また告白するつもりかよ」


「……はい」


「……へぇ」


 からかい交じりに言った言葉を肯定されてフェアニは表情が一瞬消える。

 別れたくせにまだ好きなのが納得いかなかった。

 そもそも今は相応しくないからと別れて、また付き合おうとするなんて、ある意味キープなんじゃないかと思ってしまう。

 自分だったら許せなかった。


「今は相応しくないと思っているんだ……?」


 同時にフェアニは良い考えが浮かんだとほくそ笑む。

 そしてギネカをバカだと思う。

 弱くて情けないと思える部分があるから可愛いのに無理矢理にでも止めないことを。

 もしかしたら成長したいという心意気に負けて受け入れたのかもしれない。

 なら自分とは好みが違うと安堵する。


「なら私と付き合ってみるか?そして女の扱いを勉強するのも良いかもな」


「それは……」


 好きな相手でも無いのに付き合って利用するみたいでアムルは気が引けてしまう。

 フェアニのことを好意的に思っているから更に遠慮をしたくなってしまう。


「実際に付き合わないと女の子となんて分からないだろう?だから付き合ってやろうって言っているんだ。何か不満か?」


 何が不満かと聞かれてアムルは本気で言っているのかと疑ってしまう。

 そんな教材として自分から使われて平気なのか疑問だ。


「それは好きでもないのに付き合うということだし利用されて平気なんですか?」


「構わないぜ」


 アムルの言葉に即答するフェアニ。

 だが、それでもアムルは悩んでしまっている。

 やはり互いに好き合っているわけでも無いのに付き合うのは抵抗がある。

 そしてフェアニにとっては仮にでも付き合っている最中に惚れさせれば良いのだと考えているから乗り気だ。


「別にそこまで悩む必要は無いだろう?私と付き合っても自信が付けば別れても良い。それに………」


「それに?」


 フェアニが急に言い淀んだことにアムルは興味を持つ。

 小さいがそれに反比例してハッキリ口にする目の前の先輩が言い淀んだことが不思議だった。


「私はこんなんだからな………。嘘でも良いから一度でも誰かと付き合ってみたかったんだ……」


 アムルはその言葉にギャップ差もあって可愛く思い抱き締めそうになる。

 実際に手を広げ前のめりになり、その寸前に立ち止まる。

 理性が戻るのが、あとちょっとでも遅ければ抱き締めていた。

 そのことにフェアニは隠れて舌打ちをする。


「先輩なら、かっこいいですし普通に付き合うことが出来ると思いますけど……」


 何とか理性を取り戻して言われた言葉にフェアニは複雑な表情を浮かべる。

 背の小ささやそれに釣り合う身体の発達に誰からも可愛いと言われているから、かっこいいという言葉は新鮮だったが微妙に感じたせいだ。

 それでも魅力的だと言われたのは嬉しかった。


「………そうかよ」


「………はい」


 フェアニは顔を赤くし、それに対してアムルも顔を赤くする。

 自分の言った言葉を思い出したせいだ。

 魅力的だと断言した自分が恥ずかしくなる。


「なら私と付き合えるな?」


 そしてフェアニは顔を赤くしてアムルの顔を引き寄せる。

 魅力的だと言ったのだから、これで付き合えないと言ったら噓になる。


「付き合わなかったら魅力的だと言ったのに私を振ったと学校で泣いてやろうか?私は小さくて可愛いと人気だから直ぐに学校内に広まるわよ」


 そして脅しにかかる。

 学校内でそんな風に噂をされるのはアムルも嫌だった。

 だからここは大人しく従うことに決める。

 これが不細工だったら腹が立っていたが相手は可愛い少女だから我慢が出来た。


「わかりました………」


「魅力的だと言ったのはお前だろうが。不満そうにするんじゃねぇ。それに私は年上だぞ」


 フェアニはそう言ってアムルを押し倒し馬乗りになる。

 そして自分の唇を指でなぞり、アムルの唇をそれでなぞさせる。


「な………!?」


「これだけで顔を赤くするのかよ。可愛いなぁ」


 それで顔を赤くしたアムルをフェアニは妖艶に笑う。

 外見の幼さと口調からは想像できない姿に更にアムルは赤くなり固まってしまう。


「これでもお前より年上なんだ。年下の男の子ぐらい簡単に扱える」


 耳元に口を寄せ、そう言えばアムルはまた身体をビクつかせる。

 それがまたフェアニにとって愉快だった。


「安心しろよ。私と付き合えたことを幸運だと思わせてやる」


 そしてギネカよりも自分のことしか考えられなくしてやろうとフェアニは企む。

 甘やかして甘やかして甘やかせれば情けなく弱いままに自分のモノになりそうだ。

 だが、どうやって成長していないことを誤魔化すか今から考えなければならなかった。

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