二三七話
「クソッ」
アムルはギネカが見えなくなった後に悪態をつく。
服の代金を払うと言っても無視をされて逆に払われたりと男のプライドがズタボロにされていた。
そして道端に落ちていた石を八つ当たりで蹴飛ばし自分よりも一回りも小さい女の子に当ててしまった。
「あいたっ!!?」
「すいませんでした!!!」
咄嗟にアムルは顔を真っ青にして、ぶつけてしまった女の子の前に躍り出て土下座で謝る。
いくら苛立っており、意図していなかったとはいえ小さい女の子にぶつけてしまったのは罪悪感で後悔してしまう。
先程まで会った苛立ちなんて焦りで消えてしまっている。
「えっ。………あぁ~。大丈夫ですから頭を上げて下さい。幸いにも怪我はしていませんし」
その言葉に本当かと顔を上げると本当に怪我をしていない様に見えて安堵する。
石をぶつけてしまったから怪我をしてしまったのかと思っていた。
それでも何かお詫びをしなければいけないと思ってしまう。
「本当だ。良かった~。あとお詫びに何かさせてください!お願いします!」
女の子は立ち上がって頭を下げた男に少しだけ鬱陶しく感じる。
たしかに痛かったが怪我をしていないし気に過ぎだと思っていた。
もしかして、これを理由にナンパしているのかとも思ってしまう。
「………はぁ。気にしなくて良いわよ。それでも気にするなら何で石を蹴っていたのか教えて?」
しょうがないからと理由を話させることで帳消しにしようと思っていた。
現に理由を聞こうとしたら呻いてしどろどもろになっている。
きっと情けない理由なんだろうなぁと思っていた。
「…………分かりました」
顔を屈辱でなのか顔を真っ赤にして文句を言う男の子に女の子は可愛いと思ってしまった。
「ふーん……」
そして理由を聞いて同情するような情けない男を見るような目でアムルを見る。
恋人に何かを買って上げるどころか逆に買ってもらい金を出させてもらえない。
男の方も強引に払えばいいのに負けてしまって情けない。
そして恋人の女の子も、もう少し男の子を立てて上げれば良いのにと思ってしまう。
「それは同情してあげるよ。ほら慰めて上げよう」
情けなくて自分の掌の中にすっぽり収まりそうな男の子に女の子は抱きしめて慰める。
手は頭に伸びていて撫でてあげている。
「おまっ………」
年下なのにお前と言われたことに女の子は苛立ち、更に自分に抱き寄せ首に腕を伸ばす。
「お前ねぇ。お前、高校一年生ぐらいだろ。三年生の私にナマ言ってんの?」
「は?三年?高校の?」
「文句あっか?」
女の子は信じられないというアムルにイラっときてヘッドロックを掛ける。
たしかに小さいと思うがこれでも高校三年だ。
「はぁ。自己紹介もしてなかったから今してやる。私はコンバット学校三年のフェアニ。よろしく」
「え?先輩なの?そんなに小さいうぐっ………」
小さいという男の子にフェアニは更に力を入れる。
中学生にも見られる身長の小ささを気にしているのに口を出されるのはむかついた。
「で、お前はどこの学校の生徒だ?」
それでもフェアニはアムルのことを聞く為に腕をいったん離す。
学校や学年を聞いて小さいと言ったことの仕返しを考えていた。
「その………コンバット学校の一年です。アムルと言います」
言いずらそうに答えたアムルにフェアニはニヤリと笑う。
パシリに出来そうな奴が手に入ったお陰だ。
これからちょっかいを掛けに行こうと考える。
「ふぅん。それじゃあ明日から、お前は私のパシリな」
「はぁ……!」
いきなりパシリと言われてアムルも驚く。
何で急にそうなったのか意味が分からない。
石をぶつけた謝罪も理由を話したことでチャラになったんじゃないかと思う。
「嫌なのかよ」
「当然でしょう!?俺には恋人もいるんですよ!」
その言葉にため息を吐くフェアニ。
どうせすぐ別れるだろうと想像できてしまう。
長い間、愚痴っていたのだ。
余程、彼女に不満があるのだと察することが出来る。
「うん?これをばら撒かれたい?」
そう言って差し出されのは目の間にいるフェアニの胸に顔を押し付けられているアムルの写真。
いつの間にかカメラに撮られていたらしい。
「どうする?」
「…………………」
「ん?」
よく見るとアムルの顔は真っ赤にして鼻血を出している。
小さい身長相応の身体にそんな反応をされると思ってフェアニはニンマリとする。
可愛いとは言われるが、同時に絶対に恋愛対象にはならないと言われていたから気分が良くなる。
「おっまえ、こんな貧相な体で欲情したのかよ?」
呆れたようにフェアニはそう言うが目は鋭い。
肉食獣が獲物を見つけたような眼だ。
親にもロリコンにしか需要が無いだろうと言われていたから丁度良いと思っていた。
それに掌の中に収まって簡単に操作できそうなのが良い。
「欲情って………!!」
顔を赤くしている男の子に恋人はいるが奪ってしまえば良いとも思っている。
どうせ長く続かないだろうから早いか遅いかの違いでしかない。
そうと決まれば積極的に関わろうと決意していた。




